考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

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「つながりの市場化」は悪か:外部者と内部者の適切な“つながり”をいかに生成するか

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週末、日本NPO学会第14回年次大会がありました。
大会のメインのシンポジウムで基調講演を行ったのは、『災害ユートピア』の著者で、ノンフィクション作家のレベッカ・ソルニットさんでした。


災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)
(2010/12/17)
レベッカ ソルニット

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彼女は同著で、災害のような非常時において、市民は案外冷静に行動する。それどころか、利他的な振る舞いが多く見られる。それよりも本当にパニックに陥るのは、政治家などのエリート層である、という、「エリート・パニック」を明らかにしました。

今回、その話題と共に、講演でふれられたのは、「つながりの市場化」と表現した、経済の発展に伴う、人間関係の希薄化について、でした。

「近年の歴史は民営化の歴史だとも読めるが、それは経済のみならず、社会の民営化でもあった。市場戦略とマスコミが人々の想像力を私生活や私的な満足に振り向け、市民は消費者と定義し直され、社会的なものへの参加が低下した結果、共同体や個々人のもつ政治力は弱まり、民衆の感情や満足を表す言葉さえ消えつつある。"フリーアソシエーション"(自由に誰とでも係わり合いになれる権利や能力)とはよく言ったもので、それでは深い人間関係はできない。代わりにわたしたちはマスコミや宣伝により、互いを怖がり、社会生活を危険で面倒なものだとみなし、安全が確保された場所に住んで、電子機器でコミュニケーションをとり、情報を人からではなくマスコミから得るようにうながされる。」(『災害ユートピア』レベッカ・ソルニット著、亜紀書房、p21)



この点について、山梨学院大学の竹端寛氏は次のように問題意識を述べています。

「社会の民営化」とは「つながりの市場化」のことでもある。高度消費社会において、つながりや人間関係も消費財として市場化されていった。確かにそれまでの地縁・血縁は、人々をその紐帯の枠内に押しとどめる、抑圧的な作用ももたらした。よって、つながりの開放としてのフリーアソシエーションやグローバライゼーションによって、閉塞感を超えて、つながりを勝ち得た「つながり勝者」もいる。その一方で、「つながりの市場化」の結果、特に中山間地域ほど、もともとあった紐帯がずたずたになりつつある。そこに、過疎化と高齢化が重なり、日本の中山間地域は三重苦を抱えている。



これについては、大いに共感します。ただし、「ずたずた」という表現からは、まったくのネガティブな印象を受けるのですが、ある程度、人間関係は、地域という限られたエリアに留まらないつながりを形成していると思います。すなわち、B・ウェルマンが言うところの「コミュニティ解放」が、都市部のみならず、農村部でも進展しているのが現代の日本社会の、地域社会での紐帯の姿ではないでしょうか。

ただし、中山間地域が抱える「閉塞感」は、そうした「解放」という言葉の与えるイメージとは、かけ離れたものだと思います。そのため、竹端先生は次のように指摘されています。

レベッカさんの本の中では、実は「災害時」こそ、その紐帯を取り戻し、「つながりの市場化」以前の世界に戻る世界が世界各地で垣間見られる、と書いている。だが、何も「災害」でなくとも、限界集落や中山間地の少なからぬ地域が、過疎化や高齢化問題が、放置できないほどの問題として極まってきている。この問題の顕在化局面において、地域包括ケアの問題と、街づくりの問題を分けて考えていては、大きすぎる問題は解決不可能ではないか。むしろ、福祉の人間こそ、福祉に埋没するのをやめ、町おこしや産業振興、観光振興などの異なる領域で、その地域の持続可能な発展や住みやすい・暮らしやすい街づくりといったテーマについて「同じ事を逆から眺める」人々と手を携える時期に来ているのではないか。



この指摘については、全く同感で、先のエントリーで紹介した学生の発言も、同質のものでした。
確かに、レベッカさんの言葉を借りれば「特別なコミュニティ」(The Extraordinary Communities)が、被災地では立ち上がっていました。しかしそれは、前回のエントリーでも少し紹介したとおり、ある程度、支援者という「外部者」の手を借りたものでありました。すなわち外部の紐帯と、内部での自発的なコミュニティの立ち上がりとが適切に結びつくことによって、「特別なコミュニティ」は生成されていたのです。

また、2月に同僚の先生に連れて行って頂いた、三陸の漁業復興調査でも、興味深い事例をいくつか観察することができました。
三陸の漁村は、今までそれほど「つながりの市場化」の影響を受けずに皆で漁をしたり、養殖をしたりと、コミュニティが強いところも多かったのですが、今回の津波で多大な被害を受けただけでなく、宮城県知事の「特区構想」によって、市場化という黒船に立ち向かわなければならない、二重苦となっています。

それにどう対抗するのか。いくつかのケースがあります。

ひとつは、従来の漁協を中心に、まとまって復興を成し遂げつつあるケースです。

これは、岩手県宮古市の重茂漁協が典型的です。
もともと重茂ではアワビやワカメ養殖のために、ムラをあげて資源環境保護の取り組んできた、意識が高くつながりの強い地域でした。
今回の津波では、養殖の設備の他、漁協所属の漁船は814隻のうち800隻が被災しました。「多くの漁師が無収入になる危機的状況」(伊藤組合長=朝日新聞2011年4月16日記事)のなか、いち早く漁協が、今回の津波で沖に逃げた漁船や、修理すれば使えるようになる漁船など約50隻を集め、すべて組合が所有することにしました。そして4地区に漁船を振り分け、収益は地区ごとに分け合うという仕組みをつくりました。とりあえず集まった漁船を組合員がシェアすることで、ワカメ養殖を始めたのです。(新たに購入する船はすべて漁協が所有する。全員に1隻行き渡る数が確保できた後、個人に引き渡すとのこと)

また別のケースとして、先ほどの仮設住宅のコミュニティのように、外部者と適切につながり、新たに「特別なコミュニティ」を形成する話があります。

株式会社アイリンクの「三陸牡蠣復興支援プロジェクト」の話を引きあいに出したいと思います。

アイリンクの社長、齋藤さんは、震災前から、事業の一部として、牡蠣のインターネット販売を行っていました。そして震災後、三陸の牡蠣養殖復興のために、東奔西走しました。まず、復興のための基金(「復興かきオーナー制度」)を立ち上げ、ネット上で募集を始めます。そしてその一方で、牡蠣養殖を元通りに復興させるだけでなく、より高い目標を設定します。ひとつは、「殻付き」の商品化・市場開拓です。2月18日には宮城県漁協 石巻湾支所と協力し、「かき小屋」をオープンさせますが、それが大盛況。今までにない牡蠣の売り方を、三陸で始めたのです。もうひとつ、海外展開も今後、視野に入れています。三陸の漁師さん達と新しい会社を立ち上げ、海外への売り込みもこれから始められるようです。

特区による株式会社の参入をなぜ漁協や漁師が警戒しているかというと、流通の圧力が震災前から、強くあったため、ともお聞きしました。すなわち、大手スーパーの買い叩き方がひどいのです。ただでさえ魚価は不安定なのに、そこにそんな圧力をかけてくる業者がいれば、それは警戒されて当然です。今後、参入したら、もっととんでもないことになるのではないか、と。まさに「つながりの市場化」への抵抗です。

しかし、齋藤さんの事例は、漁業が生き残るためには外部の手を借りる必要があることもあるということを示唆しています。また、外部者が現在の漁業者から信頼されるためには何が必要であるのかも、齋藤さんの事例は示唆していると思います。(ぜひ、齋藤さんのブログを見てみて下さい。三陸の牡蠣復興のために、どれだけ尽力されているか、分かります。これだけ本気ならば、信頼しない人はいないでしょう)

三陸の漁業の例で言えば、流通の圧力がひどいからといって、外部者との連携をいつまでも拒み続けているわけにもいかないところも多いのでは、と思います。それよりもむしろ、自分たちから先手を打って、外部者と「適切」に結びつき、いい意味でつながりを「市場化」するべきなのではないでしょうか。

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震災後から、「支援とは何か」をずっと考えています。
それについて、多様な場面で、「外部者の紐帯と内部者の紐帯の適切な結びつき」がひとつのキーワードであるような気がしています。

しかし実はこの「外部者の紐帯と内部者の紐帯の適切な結びつき」は、復興だけに限らず、竹端先生がおっしゃるように、例えば中山間地域であるとか、課題を抱えた地域のその解決に大いに関係するキーワードなのです。

このように、被災地復興からの学びや教訓というのは、今後来るべき災害への応用だけでなく、実は日本各地、いたるところに見られる閉塞感を抱える人々や地域のコミュニティでの、さまざまな課題解決へと通じるものがあるのではないか。そう私は考えているのです。

被災地の復興を、全国の復興につなげたいものです。そのためにも、もう少し私もこのキーワードを研究的に深めていかねば、と思っています。

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