考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

スポンサーサイト

Posted by sakunary on

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

貧しい家庭の子は社会体験も貧しくなる〜経済格差とサービス・ラーニング〜

Posted by sakunary on   0 comments   0 trackback

ぼやぼやしていたら5月の終わりになってしまったのですが、『教育と医学』No.717(慶應義塾大学出版会、2013年3月)に、拙稿「サービス・ラーニングとは何か」を掲載させて頂きました。内容はサービス・ラーニングの概要を説明したものであり、アメリカでの研究・実践の蓄積を簡単に整理し、紹介したものになっています。

本文をここに勝手に転載するわけにもいかないので、内容をここでは詳細に書きませんが、その文章で一番書きたかったのは、実は最後の章のほんの少しの部分だったりします。その部分を少し補足する形で、ここに記述しておきたいと思います。

サービス・ラーニングはコミュニティでのボランティア活動を行い、地域に貢献しつつ、多様な学びを得る、教育メソッドです。単純な「奉仕活動/ボランティア活動の義務化」とは異なっています。

単純なボランティア活動の義務化では何がまずいのか、というと、取り組む学生(あるいは生徒・児童)のモチベーションが低い(あるいは、ない)ことです。そして単純な活動経験はコントロールされたものではないので、どんな活動を行うかという活動の質は保障されていませんし、また、何を学ぶかは偶然的な要素が強いし、下手をすると悪い意味での学びを得たまま、ほったらかしと言うこともありえます(昔、自閉症児と遊ぶボランティア活動に参加した学生が、「あんなのは親の育て方が悪い」と捨て台詞を吐いて帰った、ということがありました。これも、彼にとってはひとつの「学び」なわけです。悪い意味での学びとはそういうこと。)

そして、たとえ強制的であっても、ボランティア活動の質が、学生(生徒・児童)の世帯の所得によって異なることを問題視する研究が、最近、北米で増えてきています。

例えば、カナダのオンタリオ州では、1999年より、中等教育では40時間の地域貢献活動が卒業要件として課せられていますが、ある調査では、その活動の幅(多様性)は、低所得層では極めて限られ、時には時間を水増ししたものであったことが指摘されています(注1)。

米国でも、強制的な奉仕活動ではありませんが、2008年、高所得世帯の子どもの65%が、他者を援助する機会を持っていたのに対して、低所得世帯の子どもでは、そうした機会を持っていた者は41%に留まっていたとする調査結果があります(注2)。

要するに、「貧しくても豊かなココロ」とか、「貧しくても豊かな生活」という言説がありますが、こと、経済発展した国においては、「貧しい家庭では子どもの(社会)体験も貧しい」ということなのです(貧しい家庭=相対的貧困世帯)。

こうした問題は、サービスラーニングの実施によって、解決する可能性があります。つまり、所得に関わらず、同質の活動とそれによる学びを保障することができるからです。サービスラーニングへの参加は、低所得層の学生にとって、社会参加の機会を保障するだけでなく、学習意欲を高め、学力をつけるといったように、学力格差を克服する貴重な機会となるとされています(注3,注4)。

ところが、米国では、低所得ではない地域の学校の27%がサービスラーニングに取り組んでいる一方で、低所得地域の学校は20%しか取り組んでいないという状況も報告されています(注5)。理由は定かではありませんが、低所得地域の学校ではサービスラーニングの実施が困難であり、低所得層の子ども達は、学校単位で、社会参加型の学習機会自体から排除されている実態があるのです。

日本では現在、こども貧困対策法案が、与野党で検討されています。
きちんと実態として、貧困が学力格差、学習への機会の格差をどのように生んでいるのかを把握・分析した上で、政策的な対応をとることが期待されます。
(このあたりは、日本の教育社会学での様々な分析を活かしてほしいのですが、なぜか日本では、教育系の審議会では、教育学者・教育社会学者がメンバーになることがあまりありませんし、学問的な成果が軽視されているようで、残念ですね。)


(おまけ)
貧困家庭の児童の、学習支援については、NPO・行政などによって、各自治体で取り組まれるようになって来ています。
もう一歩進んで、余暇活動まで支援しているという点で、京都のNPO法人「山科醍醐こどものひろば」の取組は、全国でも先進的な、興味深いものだと私は思っています。
「子どもの貧困対策事業ー生活困窮・養育困難家庭への生活・学習・余暇支援ー」(京都地域創造基金のサイト内)


注1:Schwarz, K. C., Mandated Community Involvement: A Question of Equity. Education Canada, v51 n2 Spr 2011.

注2:Spring, K., Grimm, R., & Dietz, N. (2009). Community service and service-learning in America’s schools, 2008. Growing to Greatness 2009. St. Paul, MN: National Youth Leadership Council.

注3:Kahne, J. E. & Sporte, S. E. (2008). Developing citizens: The impact of civic learning opportunities on students’ commitment to civic participation. American Educational Research Journal. Vol. 45, No. 3, pp.738-766.

注4: Scales, P. C. & Roehlkepartain, E. C. (2005). Can service-learning help reduce the achievement gap?
“Growing to Greatness 2005.” National Youth Leadership Council, pp.10-22.

注5:America’s Promise Alliance. (2007). Every child every promise: Turning failure into action. America's Promise Alliance.

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://sakunary.blog134.fc2.com/tb.php/119-66716c2d
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。