考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

2020年東京五輪開催決定に思うこと。

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2010年の夏季オリンピックの開催地が東京で決定しました。
誘致に尽力されていた方々にとっては感慨深いことかと思います。
祝賀ムードに溢れている中ですが、今回はどうしても「ちょっとまって」と思ってしまうことがあります。水を差すようですが、職業柄、そういう立場なので、お許し頂ければと思います。

まず、広く問題視されているのは、安倍首相が開催地決定前のIOC総会のスピーチで、福島第一原発の汚染水問題に触れたことです。
福島第一原発から事故由来の汚染された水が漏れて続けていることに対して、、原子力規制委員会が「国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)」に基づく暫定評価を「レベル3」(重大な異常事象)に引き上げることを決めたのは記憶に新しいところです。

「福島原発汚染水漏れ「レベル3」に…規制委(2013年8月28日14時40分 読売新聞)

それについて海外の記者などから、安全性についての厳しい質問が相次いでいました。
これに対して、安倍首相は、「状況はコントロールされている」。「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」。と答えたのです。
これは、明らかにウソだろう、と多くの人が異論を呈しています。

安倍首相が五輪招致でついた「ウソ」 “汚染水は港湾内で完全にブロック” なんてありえない(水島宏明) - Y!ニュース
安倍首相「汚染水は完全にブロック」発言に疑問の声広がる - NAVER まとめ

国際的な会見の場でウソをついたことは、外交問題にならないのでしょうか。心配です。
しかし、それ以上に、今回の発言は原発事故の被害者達を切り捨て、置き去りにするものにならないか、心配しています。
金子さんは、これまでの汚染水問題への疑問に対する、日本の招致委員会の受け答えを、次のように糾弾しています。

「福島は大丈夫ですか?」
「東京は安全です」

ブエノスアイレスで幾度となく発せられた答えの中に、被災地への思いは感じられない。微塵も、感じられない。福島は危ないけれど東京は関係ない。東京は安全だから福島のことなんか知ったこっちゃない。そう受け止められかねない冷たさがある。

何より、この答えを耳にした福島の人たちがどう感じるのか、という想像力がない。

五輪招致、“被災地への思い”はどこに?(金子 達仁) - Y!ニュース



そして安倍首相は今回のスピーチの中で、次のようにも発言したのです。
「福島原発事故由来の健康被害は過去・現在・未来においてまったくない」と。
(→2013.9.9 追記。健康被害については、首相は、汚染水に関して、で、述べたようですね。)
過去は、確かにそうかも知れません。しかし、未来は、どうなのでしょうか。まだ、誰にも分からないはずです。
そして、現在も、甲状腺異常が、次々に福島の子どもから見つかっています。

甲状腺がん「確定」12人に 福島18歳以下、疑いは15人 - 47NEWS(よんななニュース)

現在、これは、福島原発由来とは、認められておりません。
しかし、今後、それが増加する可能性はないのでしょうか。そしてその時、国際的に「まったくない」と宣言したことは、どのようにつじつまを合わせるつもりなのでしょうか。
あの安倍首相の発言は、現在、被ばくし、不安を抱えている被害者を、切り捨てる発言だったと考えています。

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ちょっと話題を変えたいと思います。
オリンピックの開催、少し前向きに考えてみます。
いったい、どんな「いいこと」があるのでしょう。
それについて、巷で話題になっているのが、経済効果ばかりであるのが気になっています。

五輪開催の経済波及効果 3兆円の試算 NHKニュース

あれだけお金をかけて誘致合戦を戦ったのだから、それに見合うリターンがないと割に合わない、というソロバン勘定する気持ちも分からないではありません。
しかし、もっと、考えるべき事があるのではないでしょうか。
日本でオリンピックが開催される。それに向けて、日本はどのように「スポーツ立国」していくのか、というポリシーが、政府に(東京都だけでなく)見られないのが気になります。開催国として恥ずかしくないメダルをどう量産するか、とか、そんな話ではありません。もっと根本的な話です。

今ではすっかりカネにまみれてしまったオリンピックですが、そもそも、気高い精神をもったものであります。
オリンピック憲章では、9つの根本原則を持っています。
(以下、IOCの訳によります

オリンピック憲章 Olympic Charter 1996年版 (財)日本オリンピック委員会

根本原則

1 近代オリンピズムの生みの親はピエール・ド・クーベルタンであった。氏の提案にもとづいて、1894年6月、パリ国際アスレチック会議が開催された。国際オリンピック委員会(IOC)が発足したのは1894年6月23日であった。1994年8月の第12回総会はオリンピック百周年に当たり、「Congress of Unity」をテーマにパリで開催された。
2 オリンピズムは、肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人のなかにこれを結合させることを目ざす人生哲学である。オリンピズムが求めるのは、文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出されるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である。
3 オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。この趣意において、オリンピック・ムーブメントは単独または他組織の協力により、その行使し得る手段の範囲内で平和を推進する活動に従事する。
4 IOCが率いるオリンピック・ムーブメントは、近代オリンピズムにその端を発している。
5 オリンピック・ムーブメントは、最高機関IOCのもとで、各種組織、競技者、その他の人たちを統括する。彼らは、オリンピック憲章によって導かれることに同意した人々である。オリンピック・ムーブメントに帰属するための基準は、IOCによって承認される。スポーツの組織および管理は、IOCが承認する独立のスポーツ団体により監督されなければならない。
6 オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある。
7 オリンピック・ムーブメントの活動は、結び合う5つの輪に象徴されるとおり普遍且つ恒久であり、五大陸にまたがるものである。その頂点に立つのが世界中の競技者を一堂にあつめて開催される偉大なスポーツの祭典、オリンピック競技大会である。
8 スポーツの実践はひとつの人権である。何人もその求めるところに従ってスポーツを行う可能性を持たなければならない。
9 オリンピック憲章は、IOCが採択した基本原則、規則および細則を成文化したものであり、オリンピック・ムーブメントの組織および運営を統括し、オリンピック競技大会開催のための諸条件を規定するものである。



このうち、6と8をとくに見て頂きたいと思います。
「オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある。」
「スポーツの実践はひとつの人権である。何人もその求めるところに従ってスポーツを行う可能性を持たなければならない。」
とあります。

この、オリンピックの精神に照らし合わせた時、日本はそれを開催するに相応しい精神を持ち合わせ、スポーツが行われている国でしょうか。

プロ・アマチュア問わず、現在日本のスポーツ界では、暴力的な指導が蔓延していることが、問題視されています。
また、学校教育現場でも、体育系の部活の指導で、人権を無視した指導が行われ、最悪のケースでは、子どもが自死する事件まで起こってしまっています。

今、日本で取り組むべきは、オリンピック憲章の精神を尊重し、こうした人権を無視した、非平和的なスポーツ環境を変えていくことではないのでしょうか。

また、ボランティアの研究者として発言させて頂くと、スポーツ・ボランティアの環境整備も重要と考えています。
日本のスポーツを草の根で支えているのは、ボランティアです。それも、イベントの手伝いだけでなく、日常的に子どものスポーツのコーチをしている地域のおじさん(おばさん)が、すそ野を支えているのです。その貢献度は、大変なものがあると思います。

しかし、誤解を恐れずに言えば、ボランティアであるが故に、しっかりした指導のルールが確立しておらず、それによる弊害もあると考えています。
典型的なのが、「怒鳴り声での指導」です。
他の分野で、サービス対象者に対して怒号を浴びせるボランティアなんて、聞いたことがありません。
(例えば、障害のある方の生活介助をしているボランティアが、その方に向かって怒鳴っている場面なんて、ありますか?想像できますか?もしそのようなことがあった時は、その後どうなるか、容易に想像がつきますよね?)
しかし、スポーツではそれが、何の疑問もなく日常的に散見され、そのまま、まかり通っているのです。
これはボランティア研究者からすれば、はなはだ不可思議な状況なのです。
人権無視だけでなく、それで、どうやって、「平和でよりよい世界をつくることに貢献する」ことができるでしょうか。

オリンピック開催まで、あと7年。
私は、それまでに、日本が開催に相応しい「スポーツ立国」になっていくことを期待しています。



2013.9.9 追記。

ツイッターのTL見ていて、もっとも共感できた発言はこれでしたね。

@moshi2pierrot
安倍さんには悪いけどさっき「国民が一つになって2020年東京オリンピックを必ずや成功させましょう!」との速報を受信した国民の20%以上が、昨日すでに天野アキから「頑張ろうどか、一つになろうどか言われても、息苦しいばっかりで、ピンとこねえ」 という言葉を受け取っている #あまちゃん

んだんだ。
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