考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

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カナダはなぜ「寄付大国」なのか〜日本への示唆〜

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はじめに

非営利組織のImagine Canadaでは、サード・セクターに関わる多様な調査研究をおこなっています。
その成果の一つとして、カナダ人のボランティア・寄付傾向の、経年調査があります。
その調査結果を参考としながら、カナダがなぜ「寄付大国」なのか。そして、それが日本に与える示唆について考えてみたいと思います。


カナダ人の寄付傾向の概要

まず、カナダ人は日本に比べると、驚嘆するほどの割合の人が寄付をしています。
日本で寄付をした人の割合は、様々な調査からは、だいたい30%台前半を推移しています。例えば、日本ファンドレイジング協会(2011)によれば、2009年の金銭による寄付者は34.0%とされています(※1)。

これに対して、カナダでは、2010年に寄付をした人(15歳以上。以下同)の割合は、84%となっています。
金額は、一人平均、446ドル。1カナダドル=95円(※2)で計算すると、42370円1人あたり年に寄付をしたことになるわけです。

多くの日本人の感覚からすれば、ワケガワカラナイ…といったところかも知れませんね。


なぜカナダ人はこれほど寄付をしているのか

なぜ、これほどの人が寄付をするのか。日本では様々な説が語られています。

ひとつは、宗教的な背景によるというもの。カナダ(というか、欧米では…という語られ方が多いかも)キリスト教(特にプロテスタント)の信条として、寄付をすることが強く動機づけられているという説です。

もうひとつは、税制優遇制度が関係しているというもの。カナダやアメリカでは、NPOへ寄付をした際に税制優遇を簡単に、広く受けることができるので、税金を払うよりも具体的に使い道が分かるNPOに寄付をしたい人が、あるいは、節税対策として…という人が多くいる、という説です。

実は、残念ながら、これらの説はどちらも、部分的にしか説明力を持っていません。

これについては、同じくImagine Canadaの調査で、寄付をした理由も尋ねていて、その結果が参考になります。
その理由について、「宗教的な責務を満たすため」と答えた回答者は、全体の3割未満(27%)しかいません。そして、「税制上有利になるから」と答えた回答者に至っては、23%しかいないのです(※3)。

それよりも、回答者の多くが答えた寄付の理由は、まず「ニーズのある人々への思いやり」であり、実に9割近くの人がそう答えています(89%)。次いで、「個人的な信条からの支援」が85%と、これもきわめて高い割合の人達がそう答えています。さらに、「コミュニティへ貢献したい」が79%、「(支援する)組織の理念に個人的に共感した」が61%となっています。

カナダ人が「他者の尊重」を子どものしつけで重視していることは、以前のエントリ「カナダ人のしつけ」で紹介したとおりですが、そうした個人的な感情というか規範が、大きく影響していることが伺われます。

また、「コミュニティへの貢献」が大きな理由となっていることも、見逃せません。以前のエントリ「クリスマスチャリティと子どもの学び」でも紹介しましたが、カナダでは、学校教育を通じて、コミュニティへの貢献、あるいは寄付行為を、子どもが関心を持てる形で学ぶ機会が用意されてます。家庭・学校を通じて、こうした機会が多々あることで、寄付を日常的に行う慣習が世代を超えて伝えられていっているのかもしれません。(以前のエントリ「コミュニティのつくりかた」も参考。)

加えて、4番目に多い理由として挙がっていた、「組織の理念への共感」というのも、日本の状況とは大きく異なります。というのも、世界価値観調査によれば、日本では「慈善・人道団体」へ信頼感を持っている人は32.1%と振るわないのに比べ、カナダでは76.8%もの人が信頼を寄せています(※4)。

こうした傾向から、カナダでは、「自分たちの寄付が社会の役に立つ」ということを、多くの人達が確信していることが分かります。


移民が増えて、寄付文化は変化している?

ところで、カナダは移民大国であるわけですが、では、移民が増えることで、こうした古き善きカナダのチャリティへの価値観が衰退しているのでしょうか。
これについては、Derrick Thomas氏の論考が参考になります。

氏は、『2010年 寄付・ボランティア・市民参加に関するカナダ調査』("the Canada Survey of Giving, Volunteering and Participating (CSGVP), carried out in 2010" )の調査結果を使いながら、移民と非移民(=カナダ生まれ)との間の、寄付行動の違いについて分析しています。

それによれば、寄付を行っているのは、移民と非移民を比べた時、その割合に統計的な差はみられなかったとしています。そればかりか、平均寄付額で言えば、移民の方が、非移民よりも、統計的に有意に高かったのです。
詳しく見ると、移民してあまり間がない人々や、若い世代の移民は、寄付する割合・寄付金額ともにカナダ生まれよりも少なめなのですが、移住してからの期間が長くなるにつれて、また、年齢層が上がるにつれて、寄付する割合・寄付金額は増え、さらにはカナダ生まれを上回るほどにもなっています。

なお、移民と非移民の寄付行動では、「寄付先」に違いがみられています。
移民の場合、カナダ生まれに比べ、「健康」や「スポーツ・レクリエーション」の組織に寄付する割合が低いのですが、「宗教」や「災害支援」、「国際支援」の組織では、移民の方が寄付先としてより高い割合になっています。

先ほどは、宗教的価値観は寄付に部分的にしか影響していない、と述べましたが、宗教団体への寄付は、移民では50%とそれなりに高い割合になっています(非移民は36%)。ただし、宗教組織が、社会サービス活動を行っている例も多々ありますので、寄付先が宗教団体と言っても、どのような意味合いで寄付をしているのかは、一概に言えないと思います。いずれにしても、移民の方が宗教団体への寄付が多い、というのは、キリスト教的価値観が根強く浸透しているために寄付をする人が多い、という仮説とは相反する結果だと思います。

また移民の方が「災害支援」・「国際支援」組織への寄付割合が高い(移民18%、非移民12%)ことについては、私自身が実感する出来事がありました。滞在中の2013年秋に、フィリピンで台風による大水害が起きました。このとき、トロントのあらゆる場所で、支援のための寄付の呼びかけが行われました。そしてそれを行った人達には、フィリピンからの移住者が多くおられたのです。私がフィードワーク(と英語の勉強)に行っていた移民向けの英語教室でも、フィリピンからの移住者が率先して募金箱を設置し、校長が全校アナウンスで寄付を呼び掛けていました。これは、多くの国からの移民がいるトロントならではの光景だと思います。世界のあらゆるところで災害(自然災害以外も)が起きた時、必ずその国に関わる「当事者」がおり、そのために上記のような移民の寄付先の結果となっているのでしょう。

以上のように、寄付をする人の割合や、その平均額は、移民と非移民では違いがみられません(むしろ、寄付額については移民の方が高い)。さらに言えば、ここ10年以上のカナダでの寄付をする人の割合は、大きく変化していません。こうしたことから、移民が増えたからといって、カナダの寄付文化は衰退しているわけではないことが理解できます。むしろ、強化されているのかも知れないのです。


日本への示唆

さて、こうした「寄付大国カナダ」の状況から、日本での寄付の活発化に向けて、どのようなことを学ぶことができるでしょうか。

まず、寄付教育のあり方の検討だと私は考えます。上にも述べましたが、日本では、寄付=宗教・制度的理由という誤解が根強いため、一方では日本では寄付文化は根付かないというあきらめが生じていたり、一方では税制優遇の議論に矮小化されがちです。

もちろん、税制優遇の議論は、NPOの活発化のためにも重要ではあります。しかしそれ以上に、日本では抜け落ちているのが、カナダでの寄付理由の上位にランクインされているような、個人の寄付への考え方を深める必要性の議論だと思います。

「思いやり」をどう育てるのか、という、道徳的な問題もあるのですが(くり返しになりますが、以前のエントリ「カナダ人のしつけ」参照)、それと共に、コミュニティへの貢献というのを子どもにどう教えるのか、という問題があります。


さらに、カナダでは慈善・人道団体への信頼感が強く、日本では弱いことも、寄付傾向の違いに現れている可能性があることにもふれました。そのため日本では、慈善・人道団体、広く言えばNPO全体への信頼感をどのように醸成するのか、という課題があると思います。

これらの問題は、教育という方法で解決していくことも、ひとつは必要ではあります。ただ、同時に、「実感」として、コミュニティやNPOの必要性を感じる機会が、日本社会にどれだけあるのか、あるいは、どれだけ作れるのかということでもあると思います。

先ほどの、移民の方が「災害支援」や「国際支援」の団体に寄付をしがちであるというカナダの例は、ひとつの参考になると思います。またカナダでは、気軽に人から助けの手がさしのべられることが多いことも、チャリティの重要性を実感する機会が多い一つの理由ではないかと思っています。というのも、ギャロップ社の調査によれば、カナダは世界トップレベルで、おせっかいな人の割合が高いそうなのです(※6)。人から助けられる機会が多いからこそ、誰かを助けることの重要性を実感できるのかも知れない。そんな風にも思います。

いずれにしても、このテーマについては今後も引き続き、考察を深めていきたいと思います。



<注釈>
※1:ただし、日本ファンドレイジング協会(2012)によれば、2011年、東日本震災に対応して金銭及び物資による寄付を行った人は8457万人、15歳以上人口の76.4%を占めると推計されている。例外的に、桁外れに高い割合となっている。

※2:2014年14日現在。

※3:しかしこの割合も、日本で同様な質問をした際の答えの割合に比べたら、高いのかも知れない。現在カナダ在住で、日本の資料を持ってきていないので、確かめられなくてごめんなさい。

※4:世界価値観調査では、「慈善・人道団体」への信頼感について、「大変信頼できる(A great deal)」・「かなり信頼できる(Quite a lot)」・「あまり信頼できない(Not very much)」・「まったく信頼できない(None at all)の4段階で答えている(※5)。このうち、前者の選択肢2つの合計を信頼している人の割合、後者2つの合計を信頼していない人の割合としている。

※5:この回答選択肢の日本語訳は、桜井による意訳。本来の世界価値観調査の日本調査が、どのようなコーディングで行われたのかは、これもカナダにいるので、確かめられませんでした。ご注意ください。

※6:詳しくは社会実情データ図録「社会的援助の国際比較」参照。http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2996.html



<参考文献>
日本ファンドレイジング協会編(2011)『寄付白書2010』日本経団連出版。
日本ファンドレイジング協会編(2012)『寄付白書2011』日本経団連出版。
Derrick Thomas (2012) "Giving and volunteering among Canada’s immigrants," Component of Statistics Canada Catalogue, no.11-008-X. (http://www.statcan.gc.ca/pub/11-008-x/2012001/article/11669-eng.pdf)
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