考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

トロントの子育て環境:子ども支援関係者が伝えない実態

Posted by sakunary on   2 comments   0 trackback

子ども支援関係者のあいだで、信仰にも近い根強い誤解に、「トロントは子育てしやすい街」というのがある。
しかし、残念ながら、私の知る限り、トロントはそれほど、子育てがしやすい街ではない、と思う。
私もこちらに来る前、日本で何人かの方に、「トロントに行くんだ!子育てしやすい街だから、いいね!」と言われたが、来てみてから、えーと、どこが…?と思うことが少なからずあった。

調べてみると、どうも、だいぶ昔に出版された以下の新書を見て、その後、「トロント詣で」をする子育て関係者も多くいて、そういった噂が広がっているようである。

社会で子どもを育てる―子育て支援都市トロントの発想 (平凡社新書)社会で子どもを育てる―子育て支援都市トロントの発想 (平凡社新書)
(2002/11)
武田 信子

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誤解の無いように書いておくと、上記の本には、うそは全く書かれていない。それどころか、著者はかなり公平な視点で、トロントでの子育ての困難な点も指摘しているし、丁寧で幅広い著者の体験や調査を踏まえ、自身の専門(ソーシャルワーク)に関した事柄について、平易に書かれた良書である。著者は、あくまでも自身の専門分野においては、トロントでの実践は「優れている」と結論づけているのである。必ずしも子育て全般、「トロントが優れている」と読める内容ではない。

しかしそれを、子ども支援の関係者が、同書で紹介されていることのみを、改めてなぞるように「詣で」ることで、誤解をさらに強化していっているようである。

ここで書くことは、私の体験や調査のごく一部分を切り取ったものであるし、人によっては異論があるかも知れない。それでも、語弊を恐れず言うと、「トロントは日本(の平均的な大都市)よりも、子育てがしやすいとは言えない」のである。

そしてくどいようだがもう一つ、前書きしておくと、トロントでの暮らし自体は満足している。多文化ならではの楽しさや暮らしやすさがあるし、人も優しいし、私も家族も、気に入っている(寒さも、慣れれば、まあ…何とか)。ただ、あえて「子育て問題」に焦点をあてるならば…という話だ。

というわけで、トロントがあまり子育てしやすくない根拠を、以下に列挙してみる。

理由その①保育所・幼稚園が量・質共に不十分

トロントは未だに、公教育としての幼稚園が半日制のところがある。うちの子どもが通っているところが、現にそうである。来年、やっと全部の幼稚園で全日制が施行されるところである。では、その半日はどうすればいいかというと、自分で保育所やベビーシッターを探して、頼まなければならない。あるいは、幼稚園は4歳からなので、3歳まではやはり自分で何とかしなければならない。

しかし、保育所の質もまちまちで、評判の良い保育所は待機者も多く、順番待ちである。認可の保育所であっても、行政のチェックは不十分らしく、死亡事故が起きて問題になっている。また、以下に詳しく書くが、保育所やベビーシッターは(よいところ&人ほど)費用が高い。

なお、幼稚園は日本以上に、「プレ学校」的な要素が強い。それだけに、規律はきちんと教えてくれるという良さはある。例えば、先生に質問する時には手を挙げる、とかを、学期の最初にやっていた。多文化社会なので、そこで一定教えないと、混乱が大きいというのもあるかも知れない。しかし、うちは半日制なのでとくにそうなのかも知れないが、日本の幼稚園であるような、季節の行事というのがあまりない。本当に勉強するだけ、科目をこなすだけ、という感じが強い。

また、保育所では、預けている親がボランティアに入ることが、半ば義務付けられているという。親が交代で、保育のサポートをするのだ。これは上記の新書では、保育に参加でき、また保育所の透明性も保たれる良さが強調されていたが、親からすれば時間を取られて大変、という側面も大いにある。

理由その②子育てにかかる費用が高すぎる

以前の投稿(→「カナダの保育費用」)でも指摘したが、カナダでは子育てにかかるコストの高さが問題になっている。

幼稚園から公教育は無料であるが、上に書いたように幼稚園も半日だったり、そもそも5歳からなので、それまでは自分で何とかしないといけない。例えばトロント大学が運営している保育所は、平日8時から6時までの一ヶ月間の登録で、4歳児で1295カナダドル(日本円で12万強ぐらい)。年齢が下がると、値段は上がります。たぶん税金はかからないと思うんだけど‥(カナダは消費税が高いが、医療や福祉はかからなかったり、割引がある)それでも十分高い。

ベビーシッターも、平均で週5〜6万かかるらしい(→「カナダの保育費用」参照)。ちなみに当たり前だが、ベテランの人に依頼するともっと高くなる。

なお、低所得家庭には、保育所利用に補助金が下りるが、それも不十分なようだ(→「カナダの保育費用」参照)

国際的に見ても、カナダの子育て費用は高水準にある。「社会実情データ図録」がOECD Family Databaseからまとめている「子育て費用の国際比較」(2004年度)が分かりやすい。日本も高コスト国ではあるが、それをさらに超えてカナダの方が、親が負担する子育てコストは高くなっているのが分かる。

理由その③幼児の遊び場が少ない

公園自体は市内に幾つかあり、またその広さも日本(というか私が知っているのは京都だけだが)よりも広いので、ありがたいが、問題は、特に冬。今年は特に雪が多く、また寒いためになかなか溶けない。それどころか、下手に溶けたのが凍って、公園がアイスバーンになっていたりして、全く遊べない。京都ほど、屋外施設が充実していないので行くところがない。(郊外にはいろいろあるがうちは車がなく行けない)

また、下に詳しく書くが、うちの場合、家ではまったく運動できないので、子どもが運動不足になっている。年末にお友達の家に遊びに行って、子ども同士暴れ回っていたら、次の日何と、うちの子は筋肉痛になっていた。幼児が筋肉痛って…。

こっちの人に相談すると、「水泳やスケートなど、スポーツクラブや教室に行けばいいよ」と言う。うちでは試しに、トロント大が設けている体育教室(体育館で身体を動かす)をとってみた。これ自体はうちの子も楽しんでいるし、いいのだが、時間が短く、また送り迎えの手間がいる。こちらの子は幾つもの教室(運動系だけでない)を掛け持ちしたりして、日本以上に忙しい子どもも多いようだ。また、教室もただではない。毎週1回、3ヶ月で数万円。いくつも掛け持ちしたらばかにならない。上記の子育て費用の問題にも直結してくる。

なおコミュニティセンターではドロップインと言って、自由に体育館やプールを使える時間もあるが、それは上記の教室の空き時間に限られるので、時間が合わないと行けない。

そもそも、カナダには「遊びの中で学ぶ・身体を鍛える」という発想があまり無いように思う。だからあまり積極的に、子どもを他の子と屋外で遊ばせよう、と思わないのかも知れない。それって、日本独自の考え方なのかしら。

理由その④医療の問題

カナダの医療は州の保険に入れればすべて無料(歯科など例外を除く)。しかし、待ち時間の長さが問題になっている。うちの子どもも、風邪で咳が止まらず、休日に救急病院に駆け込んだ時、3時間以上待った(それでも早いほう)。しかも、予算的な問題か、それともこちらの医療の方針なのか、子どもにはあまり薬を出してもらえない。もちろん、過剰な摂取はよくないのだけれど、欲しいと言っても、くれない。出産も、2,3日で病院を追い出される(1日の場合も)。

じゃあどうするかというと、子どもが風邪ひいた時は、薬局で薬や、ホメオパシーやハーブなどの民間療法の物を買ってきて治すしかない(薬は高い)。国民皆保険で、医療は日本が世界一ですね。

理由その⑤子ども&子育て世代に優しい?

そんなこんなで、大変なトロントの子育てであるが、じゃあ悪いことばかりかというと、そうでもない。皆、お互いに支えあって生きている。カナダは世界一、他人に「おせっかい」な国だというデータもあるし、友達とのつきあい方も日本より密だ。(詳しくはこちら。世界データ図録「人づきあいの国際比較」)。出産・子育てで、友人や他人から優しくしてもらったエピソードは枚挙にいとまがない。これは、日本とは大きな違いだ。それだけとれば、明らかに日本よりも子育てしやすい。

ただし、それを許さない住宅事情がある。マンションなどで、子どもの音・泣き声等が騒音となり隣人から苦情を受け、泣く泣く引っ越す、というのはよくある話らしい。それを聞いたのは、子どもの友達のお母さんからなのだが、実は私の家庭も、そうした苦情で大家と揉めて、引っ越すかどうか悩んだ時期があった。

実は、オンタリオ州の法律では、子どもの音は立ち退きの理由にならない(それを防音するのはオーナーの義務)となっている。それを盾に大家とは交渉し、今はうちは小康状態を保っている。しかしそれを知らない人も多いだろうし、また「静謐義務」も法律上、あるいは、マンションの規定でもあったりするので、泣く泣く立ち退く人もいるのだと思う。そして引っ越した先でもまた立ち退きを迫られ…という「子育て難民」もいるらしい。

またそのことで、結局それ以来、うちでは子どもはかなり物音に気を使って暮らさざるを得なくなっている。叱ることも増えたし、遊び方も、制限される。可哀想なことをしていると思っているが、仕方ない(これが上記の運動不足にもつながっている)。

理由その⑥貧困の子どもが多い

これは平均値の問題になるが、子どもの相対的貧困率は、日本以上に悪い。ということは、可能性を奪われている子どもが日本より割合的に多い、ということになる。

その他…
・上記の新書で、母親サークルの活動が書かれていましたが、その当時はそうだったかもしれませんが、今では日本の方がさかんのように思います。そもそも、働いている親が多いので、サークル活動など出来ないのかも。
・同じ理由で、ママ友が作りにくいことも。「公園デビュー」しても、周りはシッターばかりで、他のお母さんと知り合いになれない、とか。
・移民向けのサービスは整っていますが、そもそも子育てで家から出られないお母さんには、それが届かない場合も。私が通っている移民向け語学学校のクラスメイトで、3人の子持ちのお母さんは、こちらに移民して来て数年間は、子どもの面倒をみるために家に引きこもっていて、英語もろくに話せず、また友達もいなかったと話していました。
・歩きタバコが多く、子連れだと怖い。トロントは、屋内は禁煙ですが、屋外は自由になってます。



以上、長くなってしまいました。
何のためにこれほど力説しているのか分からなくなりましたが、まあ、トロントの子育てといっても、いろいろあるよ、ということを理解してほしい、というのが結論でしょうか…。
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Comment

says... ""
非常に同感です!皆さんに子育てしやすいよね?と言われましたが、そうでもないなあとよく思いました。もちろん、道ゆく人々の子供への愛情の示し方や、若者までが親切にしてくれるのは、日本にはない素晴らしい面だと思いますが。
2014.06.13 03:22 | URL | #- [edit]
sakunary says... "Re: タイトルなし"
コメントありがとうございます。人がみな親切なのは、子育てに限らず、こちらでの生活が過ごしやすい大きなポイントですよね。あと、おおらかなのも。こちらのペースに慣れると、日本での生活復帰が大変そうです(笑。
2014.07.14 13:36 | URL | #- [edit]

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