考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

カナダにおける「輸入された紛争」問題

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カナダが抱えている「ご近所問題」のひとつに、「輸入された紛争」問題がある。これは、紛争関係にある(あった)二つの国から来た移民同士の緊張関係と、それがもたらす諸問題のことである。独立研究機関であるモザイク・インスティテュートが出している報告書によれば、多くのカナダ人が「輸入された紛争」を課題と認識しており、実際、5人に1人はそれを見たり聞いたりしているという。

しかし、「カナダに住む」ということは、それ自体、多文化的な思考様式を持つ契機ともなることが、同調査では示唆されている。他国生まれのカナダ人の4分の3が、国際紛争問題について、何らかの意識変化を経験しているという。それは、子ども時代に教わったことと違うことを学んだり、紛争について異なる立場からの意見を目にしたり、紛争の「相手側」の人々を受け入れたり、といったなかで、紛争についての考えや感情が変わってきている人達がいる。

モザイク・インスティテュートでは、「輸入された紛争」の解決のために、幾つかの興味深い実践も行っている。その一つに、チベットと中国のオリジナリティを持つ若者を半々で集め、2年間かけてワークショップを行っている。この取り組みはきわめてセンシティブだ。彼らも取り組みののねらいについて、次のようにウェブサイトにあげている。

「私たちのねらいは、人々の地政学的な視点を変えることではありません。正確に言えば、私たちのゴールは、カナダ人同士で見解を交わし、異なる意見を丁寧に聞きあい、そして、カナダの世界的利害と、市民やコミュニティが、カナダの外交政策へ発信し、そしてカナダの国際的立場の積極的な代弁者になるといった前向きな役割について、建設的な議論を行うことです。」


あくまでカナダ人としての…というところが、ひとつのポイントであろう。この取り組みは本年2月にシンポジウムを開き、終了している。そのシンポジウムでは中国系と思われる研究者が、中国におけるチベット民族の社会的な不公正を、経済的状況などのデータを使って紹介していた。つまり、中国がチベットを侵略したこと自体は、所与の事実(あるいは歴史的経緯)にしてしまっていて、議論に臥していない。

当然ながら、今でもトロントでは、チベット難民とその支援者によって毎年、中国による「違法な」侵略に抗議するデモは、大規模に行われている(※資料→カナダのニュース配信会社CNWによる、2014年3月10日のチベット・デモを伝える記事)。カナダが国内に抱える複雑な緊張関係は、今後、同国をどのような国際的な役割へと導くのであろうか。

(追記)
おまけ。トロント大学の学生新聞の、チベット系移民に関する優れた記事(リンク)。それにしても、こちらの学生新聞は、社会的な問題に鋭く切り込んでいて、質が高いといつも思う。
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