考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

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カナダの社会的企業を巡る議論(カナダ非営利・社会的経済学会報告その2)

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カナダ非営利・社会的経済学会参加報告その2。

興味深かった議論の二番目は、社会的企業に関する議論だ。

ICSEM(International Comparative Social Enterprise Models;社会的企業モデル国際比較) という、ベルギーの研究者が主導して世界的に社会的企業を比較しようという研究プロジェクトがある。50の国と地域、200人以上の人が集まって行われるプロジェクトである(日本から私も参加している)。これへのカナダでの参加者が開いたセッションに参加した。

ICSEMのベースとなっているのは、ヨーロッパの社会的企業研究者達のグループが中心となってスタートした、EMES国際ネットワークである。EMESによる社会的企業の定義は、経済的自律性、社会的ミッション、民主的ガバナンスの3点に整理できる。そこで主に想定されているのは、協同組合であり、非営利組織である。

しかし、カナダで、とりわけ実践家と政策担当者の間で広く使用されている定義は、次のようなものだ。

「非営利組織によって所有または管理されているビジネスベンチャーであり、投資への見返りとして財務的な目的と、社会/環境/文化的な目的とが融合したものを創造するために、市場を通じた商品販売やサービス提供を行う。」
例えばこちらの、オンタリオ州の社会的企業実態調査報告を参照。※注PDF

これは主に、北米とイギリスで中心的な社会的企業の捉え方だと言える。そしてそこには明確に、協同組合は含まれてない(非営利組織による管理が前提なので)。現に、とある研究会で、カナダの全国的な社会的起業支援ネットワークの担当者も以前、そう強調していた。

ところが難しいのは、カナダの中でもケベック州はフランス文化圏に属し、大陸ヨーロッパの文化と伝統を今でも色濃く残している事である。そのため、ケベックでは、非営利組織よりも協同組合の方が一般的であり、EMES型の「社会的企業」の定義の方がフィットする状況にある。

このテンションをどう処理するかが、カナダの大きな(学術的な)チャレンジだと言える。実際、上記のカナダ型定義を使用して調査を行った団体の代表者も、ケベックで調査する時は別の物差しが必要ではという私の質問に、強く首肯していた。

ところが逆に、今回のカナダICSEMプロジェクトのセッションでは、そのコーディネーターの先生が協同組合の研究者ということもあって、協同組合の存在感を必要以上に強調しがちな恐れが、議論の中で感じ取れた。

実際、日本に伝わっているカナダの社会的企業の話と言えば、協同組合(特にケベックのそれ)がメインだ。これは、国際的な発信と日本での受容が、主に協同組合関係者によってなされてきたことによるものである。しかしそれは、残念ながら、カナダの全国的な実態からはミスリーディングなのである。
(余談だが、別のある分科会では、協同組合に関わる過去の学位論文、現在の研究プロジェクトにおいて、社会的企業はほとんど扱われていない、という話だった)

むしろ、オンタリオ州(とくにトロント市)の実態から強調すべき事は、社会的企業の台頭の大きなドライビング・フォースは、コミュニティベースの非営利組織の役割である。

トロント市のコミュニティベースの非営利組織には驚かされる。各地にコミュニティ・センターと呼ばれる市民会館と体育館が一緒になったような場所はあるのだが、それらの幾つかは草の根組織から地域問題を解決するために発生したものであり、そうしたバックグラウンドのところは間違いなく、多様な社会サービスを提供しつつ、市民参加促進、アドボカシー、調査活動、雇用促進、などなど、社会変革のための取り組みも多々行っている(以前の投稿「ラーニング・エンリッチメント財団(LEF)訪問」も参照のこと)。

多くの非営利組織が、政府の予算削減と、しかしながら減少しない(むしろ増大している)社会問題との間で、どう新たな収入源によってサービスを維持するか、あるいは、新たなサービスを展開するかに頭を悩ませている。その模索の一つが社会的企業であり、または社会的投資なのである。それにしても、そうした非営利組織の社会的企業インキュベート機能は無視できないものがあるのだ。

しかし面白いのは、また別の分科会の話になるが、いかに社会的企業が事業を拡大していけるのか、という調査結果の報告に対して、社会的企業とは何か?社会的企業の「社会」性、すなわち、社会運動的側面をないがしろにした議論で良いのか?というコメントが出てくるところである。

社会的企業の「社会性」とは何かは、日本でもしょっちゅう議論になるところで、確かにそれを置き去りにした議論は危険で、何でもかんでも社会的企業と自称すれば、社会的企業だという収拾がつかない状況になる。この辺はカナダでも混乱があり、まだまだ議論が続いているのだと言うことが分かって興味深かった。

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