考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

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地域資源をベースにした地域課題解決・活性化の手法「アセット・ベースド・コミュニティ・ディベロップメント」

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(以下は、『公益一般法人』2015年5月号記事「「ヒト」から始める公益事業の新アプローチ」として寄稿したものをベースに載せております。引用の際には必ず元記事をご参照下さい)

ABCDとは何か

 本稿は、先進国・途上国で広く、地域の課題改善・活性化のために用いられている手法である「アセット・ベースド・コミュニティ・ディベロップメント」(Asset based Community Development。以下ABCDと略記)の概略と基本的な方法を伝え、広く公益事業に役立ててもらおうとするものである。

 ABCDは翻訳することによって、ABCDの内容を誤解することにもつながりかねないず、アルファベット表記やカタカナ英語で示しておく方が都合がよい。それを理解して頂くために、言葉の意味、定義をまずは簡単に説明しておきたい。まず、アセット・ベースド・コミュニティ・ディベロップメントの後半、「コミュニティ・ディベロップメント」についてである。この用語が、北米や英国で使われ出したのは第二次世界大戦中・後とされており、米国で言えばニューディール政策の時期であると言われている。現在、その定義は多様であるが、例えば、「一定の地理的範囲・あるいはそこに住む特定の課題を抱えた人々(=コミュニティ)に対して、メンバーの集団的行動を基盤として、経済的、社会的、環境的、文化的な問題の解決を図るプロセス」とするのが、代表的であろう 。

 この定義は、四つの含意を含んでいる。まず、コミュニティという概念は現在ではきわめて広範な意味を持つに至っているが、ここでは地理的な範囲を意識した意味に限定していることである。しかし逆に、二点目として、ディベロップメントという用語は、狭い意味では使用していない。日本語で直訳すれば「地域開発」となってしまうが、そこでイメージされるインフラや住宅商業地の整備という内容を超えて、市民生活を多面的に充実させるという意味が含まれている。さらに三点目に、そこには「メンバーの集団的行動」という、住民等による主体的な集団参加が不可欠であるという視点である。最後に、結果だけではなく、そのプロセスにも注目している点である。これは三点目の市民参加の視点と関係する。市民がその地域づくりのプロセスに参加することによって、よりニーズに即した満足度の高い成果となることが期待されているとともに、そのプロセス参加を通じた住民間の民主主義的成熟(別の言い方をすれば、ソーシャルキャピタルの醸成)をも期待しているのである。

 さて残された「アセット・ベースド」について解説しておこう。アセット、は日本語で、資産や財産、資源などと訳され、主には金融・企業会計分野で使われる用語である。それは理解しているという本誌の読者も多いだろうが、ABCDでのアセットとは、単なる金融資産にとどまる概念ではない。地域にある全てを、地域を活性化させるための資源と考える。とりわけ、後で詳しく述べるが、そこに住む人々と、その人々の間のつながりを中心的な資源と考えている。このことを次の章でより詳しく述べてみたい。とりあえずここまで述べてきたことを整理しておくと、ABCDとは、「地域資源を基盤とした(=ベースドの意味)コミュニティ・ディベロップメント」のことなのである。

 ABCDの発想は、しばしば、「コップに半分入った水」に例えられる。この比喩自体は様々な場で使われるので、聞いたことがある方もいるかもしれない。コップに半分入った水を、「もう半分しかない」と見るか、それとも「まだ半分もあるじゃないか」と見るか。ABCDは後者に立つ。すなわち、地域を解決すべき課題の塊として捉えるのではなく、解決手段のための資源に溢れたエリアと見るのである。それも、どのような地域であっても、どのような人々であっても、その資源を持っているというのが、ABCDの揺るぎない信念である。私はこの話を、ABCDの創始者の一人であるジョン・マクナイト から聞いたとき、一つの思い出が脳裏に浮かんだ。大学生時代に発生した阪神大震災、何の役に立つかも分からず駆け付けた神戸の被災地で、ボランティアとして活き活きと活動していたのは、中学・高校生ぐらいの「ヤンキー」の若者たちの姿だった。彼らは地域の問題と考えられていたかも知れないが、実はかけがえの無い資源だったのである。

ABCDの導入:アセット・マッピング

 ABCDではこのように、地域のニーズや課題ではなく、資源に焦点をあてるところから、プロセスを始める。課題を全く無視するわけではない。しかし、課題から語るのはよくない、とされる。なぜか。ジョンは、「課題に焦点を当てても、次から次に新たな課題が見つかるだけで、解決にはほとんど結びつかない」からだとする。地域の課題解決のワークショップなどでは、まず地域の課題を出し合うことが頻繁に行われるが、これは望ましくなく、ABCDでは、むしろそれを反転し、「地域の資源地図づくり」(アセット・マッピング)という作業を、地域化以前プロセスの第一歩として行うことが推奨されている(図1参照)。若者、高齢者、芸術家…といった多様な人々が地域には住んでいる。趣味や余暇、宗教によるなどの、多様な市民団体・住民団体が存在している。学校、図書館、病院、公園、さらに営利企業も含め、様々な機関が運営されている。これら全てが、地域を改善・活性化する資源なのである。

図1地域の課題地図から地域の資源地図へ

名称未設定

※出典:Kretzmann & McKnight (1993) p.3, p.7を元に筆者修正。

この時、住民のアセットを明らかにするために、具体的にどのように行うべきなのだろうか。マクナイトは地域のアセットを見つけ、それらを相互につなげる中心的なメンバーを「コネクター」と呼んでいるが、そのコネクターが住民に訪ねる質問の仕方として、次の4つを挙げている(McKnight, 2013)。まず、「あなたが頭を使ってできることは何?」という質問である。これは、特に知識を持っていることについて尋ねるものである。次に、「手を使ってできることは?」という質問、すなわち、持っている技術を尋ねるものである。さらに、「ハートを使ってできることは?」という質問も挙げられている。特に心を砕き、世話ができること、関心を持っていることを尋ねるものだろう。そして最後に、その人や家族が所属する団体やクラブ・グループを尋ねる質問がある 。

 マッピングの仕方は様々な形式が有り得るので、ABCDでは特に限定された方法は提示されていない。例えば、KJ法を応用することは容易に出来るだろう。また、カナダ・アルバータ州での、食糧安全保障のためのコミュニティづくりワークショップのガイドでは、実際の街路をイメージしたマッピングがサンプルとして提示されている(図2参照)。

図2 アセットマッピングの例
名称未設定1
出典:Growing Food Security in Alberta (2006-2007)

ABCDの展開:資源同士の結合

 地域の(とりわけ住民個々人の)持つ資源を地図に落とし「見える化」したところで、次に重要になってくるのが、資源同士をつなげ、具体的な地域改善・活性化の方策を考えることである。マクナイトは、ここではコネクターは、次のような提案をするべきだとしている(McKnight, 2013: p.15)。

「チャーリーズはジャグリングの仕方を知っている。誰か地域の子どもで彼から教わりたいという子はいないか?」
「22人の人たちが楽器を演奏している…独りで。彼らがつながればバンドが2つ編成できるんじゃないかな。」
「11人の人たちはビジネスを始める方法を知っていると言っている。彼らをサムとサラと、そしてジョアンに紹介しよう。仕事を始めたいと言っていたから。」
「ジェーンとナンシーとシルベスターは、健康管理ができる。彼女らは地域主導の健康づくりにつなげていける。」



 ここでの提案では、住民同士の資源を連結し、新たな価値を地域に生み出すことに主眼を置いているが、資源は住民個人が持つだけでない。地域の団体・機関も資源である。そこで、例えば地域の若者が、学校・公園・銀行・中小企業・メディア等とつながって地域問題解決のために何ができるか、というような発想もしていくことができる(Kretzmann & McKnight, 1993: 44)。重要なのは、相互に利益あるコミュニティ内の問題解決のために、地域資源同士を関係づけるということである。

まとめ:ABCDの展開とその意義

 最後に、ABCDの重要なポイントの整理を述べ、ひとまず本稿を閉じておきたい。マチーとカニングハムは、ABCDの重要な要素として、次の5点を挙げている(Mathie & Cunningham, 2002)。

1. 変化のために、共有されている地域の歴史的な強みと成功体験を描き出すことから始める。
2. あらゆる種類の存在する地域資源の中で、ABCDは特に、内在する社会関係性に注目する。それは、公式・非公式の団体とネットワークである(ソーシャルキャピタル)。
3. 積極的な参加とエンパワメントは実践の基礎である(参加型開発の伝統を受け継いでいる)。
4. 持続可能な経済発展のためには、内発的発展の発想が重要と考える。
5. 持続可能な経済発展のために、コミュニティレベルのアクターと、行政・企業のアクターとをつなぐ。


 要約すれば、ABCDとは、地域資源に着目し、地域住民主導の参加型プロセスで、ソーシャルキャピタルを醸成し、内発的な発展を志向するものと言えよう。実はこの様に思想的に整理されるような取組は、日本でもすでに様々な地域で、様々な手法で行われているし、それほど目新しい取組ではない 。それでも筆者は日本の公益活動に応用可能な手法として紹介する必要があると考えた。その理由は第一に、ABCDが、個人とその関係性(ソーシャルキャピタル)に注目する点である。これまで「地域資源を活かした活性化」と言えば、例えば歴史的な史跡を活かした活性化であるとか、自然や土着文化を活かすなどの方向性がまずは志向されてきた。もちろんABCDでも、それらは重要な地域資源と考えるが、しかしそれ以前に、人と人との関係ありきなのである。さらに、人が持つ資源をあぶりだすところから始める姿勢には地域の問題解決・活性化に向けては、地域住民が主体的に取り組むところからしか始まらないというポリシーがあるように思える。

 さらにそれに関連するが、第二に、ABCDには「どんな人でも地域をよくする能力・知識・技術を持っている」という信念が基盤にある。そのため、ABCDでは、個人の持つ能力等を「ギフト」と呼ぶ。英語でギフトは贈り物という意味の他、天(神)から与えられた才能、という意味も持っている。子ども、障害者、ホームレス、後期高齢者…地域ではどちらかというと、福祉対象者であって、お世話をしなければならない側と考えられている人たちであっても、そのギフトを活かすことが出来るし、それによって地域はよくなる。この底抜けの楽観主義が、ABCDの大きな魅力である。

 ABCDは手法の詳細があまり固まっていないことが課題と言えば課題であるが、逆に言えば、自由度が高いとも言え、魅力の一つとしてカウントできる。ABCDは日本ではまだ全く知られていないが、現在世界的に拡がっており、この6月には国際大会が開かれる。今後はそうした世界での拡がりを理解しつつも、日本固有の文脈に即した方法論の確立が必要だろう。そういう意味では、経済発展だけでなく、福祉、環境、教育子育て、防犯防災、文化、国際貢献等々、多様な地域での公益事業への応用の可能性も大きいものがあると考えている。

<参考文献>
1. Growing Food Security in Alberta (2006-2007) Community Building for Food Security: A Workshop.
2. Kretzmann, J. & McKnight, J. (1993). Building communities from the inside out. Chicago, IL: ACTA Publications.
3. Mathie, A. & Cunningham, Gord, (2002) From Clients to Citizens: Asset-based Community Development as a Strategy for Community-driven Development. Occasional Paper Series, No.4.
4. McKnight, J. (2013). A Bacic Guide to ABCD Community Organizing. ABCD Institute. (http://www.abcdinstitute.org/publications/downloadable/ )
5. 山崎 亮(2011)『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』学芸出版社。
6. 吉本 哲郎(2008)『地元学をはじめよう』岩波書店。
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