考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

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ヨーロッパにおけるWISE(労働包括型社会的企業):先行研究の整理(研究メモ)

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こんにちのあらゆる福祉国家において、社会的に不利な立場の人びとの労働市場への包括問題は、重大な関心事となっている。労働市場から排除されがちな人びとに対して労働市場への包摂(work integration)を目指してトレーニング、就労支援、直接雇用、社会参加支援を行う諸組織を「労働包摂型社会的企業」(work integration social enterprise; 以下WISEと略記)と呼んでいる。社会的企業には様々なタイプが存在するが、WISEは幅広くヨーロッパ全域で見られる形態である。2001年から2004年にかけてEU内の社会的企業研究者ネットワーク(L’Emergence des Enterprises Sociales en Europe; EMES)によって、EU内11ヶ国の150のWISEを対象に調査(PERSE リサーチプロジェクト)が行われたことでその実態が明らかとなった。

社会的企業とはヨーロッパでは、社会的企業とは民主的な運営(地域の利害関係者の参加、利潤分配の制限、資本によらない意思決定)がなされ、経済的リスクをある程度有し、自律性を持って財・サービスを提供する組織であるとされる(Nyssens, 2006など)。これを踏まえWISEは「労働市場において深刻な困難に陥っている人々を、WISE自体あるいは労働市場で主流の企業に専門的統合することを主な目的とした自律的な経済主体」と定義される (Davister et al., 2004: p.3)。さらにその統合は、「生産活動や適切なフォローアップや質の高い労働者を目指した訓練によって達成される。」そして、「WISEは多様な業務領域で活動する。しかしヨーロッパでは共通して、単純労働(建築業など)、廃棄物回収とリサイクル、公共施設や公園の管理、包装作業などが典型である」(いずれも同上)

なおここでの社会的企業とは、日本でよくアメリカ流に理解されているような、「社会に役立つビジネスを行い市場で利益を得る企業」のことではないので注意が必要である。そのため、EUにおけるWISEの運営は、政府補助金かマーケットリソース、寄附やボランティア、またはその組み合わせとなる。資源を「混合 (Hybridization)」 する点が積極的に捉えられる。

ヨーロッパ各国やイギリスでは、80年代の「福祉国家の危機」以降、「福祉から雇用へ」の政策的方向付けがなされた。そうした状況下で、排除されがちな人びとの就労支援を行う主体として存在感を増してきたのがWISE(Work Integration Social Enterprise;労働包括型社会的企業。ワイズ)である。社会的企業はヨーロッパでも国によって様々なタイプが存在するが、WISEは幅広くヨーロッパ全域で見られる形態である。

WISEはヨーロッパでは次のような排除されやすい人びとの就労支援を行っている(Davister, et al, 2004)。第一に、重大な社会的課題を抱えた求職者である。ここには二種類の人びとが含まれる。まず、身体・知的・精神障害者を対象とするWISEがある。他方で、アルコールやドラッグ依存、深刻な家族の問題、保護観察中や刑務所出所後の者などを対象とする組織も存在している。第二に「配置が難しい」および/または 長期間求職中の者である。たとえばフィンランドでは労働者協同組合は長期失業中の者(特に35歳以上)の新たな職場づくりとして設立されている。第三に若年の、早い時期での学校中退したりして技術・資格を持たない求職者である。ベルギーの若者へのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)組織や、イギリスの中間労働市場組織といった形態がそれに当てはまる(※)。第四に少数派(とくに少数民族・人種)の求職者である。イギリスの労働者協同組合では、外国人マイノリティや女性を多く雇用している例がある。そして最後に、女性求職者である。フランスの地域住民企業では包摂問題を抱えた者を雇用しているが、その多くは女性である。地域的な仕事(公園管理やビルメンテナンス)を行っている。

WISEの法的枠組みは労働市場政策に左右される。積極的労働市場の補完的役割を担わされることも多い。実際、フランスでは2004年時点において、政策的枠組みで2300の労働包摂サービスを提供する組織があり、そこでは22万人が雇われている(Deforny & Nyssens, 2008)。Deforny & Nyssens(2008)によればこうした経緯は2000年に入って顕著になっているようである。

もちろん、日本でもこうしたWISEと呼べるような事例は多数存在している。1970年代以降に全国に広がった中・重度の知的障害者の働く権利を保障するために労働の場確保を目指した共同作業所(運動)は、日本を代表するWISEの一形態であるといえるだろう。この共同作業所運動は近年、精神障害者対象にもその取り組みを拡大させている。それ以外にも、ワーカーズ・コレクティブや労働者協同組合の取り組みも比較的歴史のある日本のWISEの典型例といえる。また近年では、若者無業者・フリーターへの就労支援が政策的課題となっているが、そこでもNPO・社会的企業は活躍している。

※中間労働市場については以下の通り。「…概して、就労支援のために継続的な援助をともなった、本格的な労働環境の中で提供される恒久的有給雇用の広い範囲の方策」 (Finn & Simmonds, 2003)

<参考文献>
Davister, C., Deforny, J. & Greroire, O. "Work Integration Social Enterprises in the European Union: An Overview of Existing Models," EMES Working Papers, no.04/04, EMES, 2004.

Nyssens, M. (Ed). (2006). Social Enterprise: At the crossroads of market, public policies and civil society, Routledge.

Finn, D. & Simmonds, D. (2003) “Intermediate Labour Markets in Britain and an International Review of Transitional Employment Programmes,” Research report (Department for Work and Pensions) , W173.

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