考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

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(書評)「ヨーロッパにおける公共政策と社会的企業:制度化の挑戦」(M. ニッセンス編 社会的企業 第17章)その2

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(前回の続き)

EUの中では1970年代後半から1980年代前半にかけて、パイオニア的なWISEが登場した。それは特別な政策的支援のない中でである。失業と社会的排除が増える中でそれに対抗する有効な手立てを社会政策の中には見いだせなかった。そうした意識を持った市民社会のアクター達が、長期失業者、未熟練労働者、社会問題を抱えた労働者のために立ち上げた。時には当事者達もそれに関わったり、自助運動の盛り上がりによって当事者自身が起業したりもした。

90年代の初め、いくつかの国々(ベルギー、ドイツ、フランス、アイルランド)では、WISEは「二次的労働市場」と呼ばれる雇用政策と社会政策の中間形態の雇用プログラムを利用した。それは、政府が補助することで雇用者負担を相当程度軽減させるものであった。このプログラムの目的は二つあった。ひとつはたくさんいる失業者を解消すること。もうひとつは社会的ニーズを満たす仕事を創造することだ。しかしこのプログラムには問題が大きく二つあった。ひとつは失業者を雇用へとつなげる真の架け橋とはなりえなかったこと。もう一つは既存の組織によって満たされてはいなかったニーズを満たす社会サービスのような、集合的側面をもった生産に従事するWISEにとって、彼らは公共かプライベートかという課題を提起した。

90年代の終わりから、積極的労働政策の導入がEU内で見られるようになった。

前にWISEの「政策的埋め込まれ」を論じたとき、それは政策が発展すると共に、WISEもその政策的発展の影響を受けることだと述べた。最初のWISEの台頭には、特別な政策的支援はなかった。例えば1980年代にイタリアでWISEが登場した際には、何の政策的支援もなかった(現在でもそれは低レベルである)。そのため初期のパイオニア的WISEでは資金源のミックス(寄付・事業収入・補助金)が特徴的であった。

第二段階では、「対話的」であり、いくつかの国(イタリア・フランス・ベルギー)でパイオニア的WISEが彼らのための新たな政策的枠組みを引き出した。例えばイタリアでは1991年に「社会的協同組合」というそれまでの非営利・営利・協同組合とは異なる法人格制度が導入された。それは公金の受け皿と言うよりも社会目的を持った企業のための画期的な法人格であった。

しかしその「対話」はいつでも順調には進んだわけではなかった。実際、WISEのミッション達成とその特別な法枠組みが折り合わないこともあった。例えばアイルランドの「地域開発」(注:コミュニティビジネス)の枠組みは社会経済主体にはなじまなかった。また、特別な法枠組みで一部を優待するということは、それ以外を排除することにもつながった。

法人格制度のある/なしにかかわらず、調査対象の全ての国ではWISEが利用する積極的労働政策の影響が見てとれた。この枠組みは既に説明したように、全ての種類の法人格の団体(営利非営利関わらず)に、オープンに一時的な補助を提供し、失業者を「ノーマルな労働市場」へと包摂するものだ。しかしそれによってWISEは疑似市場での競争に巻き込まれることになる。

なお、しばしばWISEはミッション達成のために、複数の積極的労働政策に関与し、資金を得る。

社会的企業は一般的に目標の複雑な混合を有する。WISEであればそれは、労働と社会的包摂と、生産の目標達成である。公共政策はWISEのミッション達成にどのような影響を与えたのだろうか。まず、労働と社会的包摂の目標達成についてである。

一時的に与えられる補助金のもとではスキミング(えり好み)を生んでしまう。企業はより手のかからない、「費用対効果」がよい労働者を雇おうとするし、補助金が切れた後はよりそうした労働者を雇用し続けるだろう。そこでは「ノーマルな労働市場」に労働者を包摂することが単一的な目的となる。しかしWISEの受益者(beneficiaries)は多様である。確かに「一時的な失業状態」の者はそうした一時的な補助金でノーマルな労働市場に再包摂できる。しかし、複雑な問題を抱えていることによって、適した仕事を見つけることが困難な人達もいる。そうした人達には人的資本・社会関係資本を身につけさせると共に、適した仕事を独自に開発する必要も出てくる。

こうした視点から、ヨーロッパのWISEは、労働市場で最も不利な立場に置かれた人びとを対象とし、公的機関は彼らに恒常的な補助金を与えていることが分かる。この場合、WISEは「保護的労働市場」(sheltered labour market)で労働者の社会包摂を支援しているといえる。

次に、生産物による目標達成についてである。WISEの生産の目標は、少なくとも彼らの労働・社会的包摂を支える意味を持ったものである。全てのWISEへの独自の公的枠組みはそのミッション達成に関わっている。しかしそれ以外に、生産物自体が広い意味で彼らの包摂目的を達成することもある。例えば行政では提供していないサービスをWISEが「上乗せ」的に提供しているケースがある。その場合、収益性は低くとも意義がある。しかしこうしたサービスの提供は政府によるWISEの支援枠組みには含まれないことが多い。この問題の克服には、一つには、地方自治体とのパートナーシッププログラムをWISEが開発する必要がある。

結論。以上のように、政策と経済主体(WISE)とが互いに複雑に影響をし合って発展してきている。これはポランニィの概念である「政策的埋め込み」を支持する。WISEの発展には政府の関与が重要であることが理解できる。


~以上、要約終わり。以下、感想~

EU内のWISEの発展についてはとても理解できました。
しかし、もともとそれほど力点を置いていないのかも知れませんが、理論的な枠組みでの分析には少し、不明な点が残るものでした。

例えば、冒頭で提示されていた「第一に、非埋め込みの方向から、自己規制的な市場と単一的な企業形態を減らす存在としての経済である。第二に、まったく逆の流れである。すなわち、経済の政策的再埋め込み化である。このような視点で、サードセクターと政策との関係性を、EUにおけるWISEを例として分析する。」という視点はどっかいっちゃってますし。
つまり、大まかな流れとして、社会的企業を支援する政策枠組みが登場すると、その枠組みを利用する団体が出てくるのは分かります。しかしそうする団体と、そうでない団体があるのはなぜか。これが「埋め込み」理論では何も解釈されていません。あるいは、複数の政策枠組みを同時に利用するWISEとそうでないWISEの違いは何か、そもそもパイオニア的WISEが登場する背景(要因)は何か、等々。

個人的には新制度組織理論の枠組みを丁寧に援用して理論的なインプリケーションを出しても良かったのではないかと思います。現在私も日本のWISEを調査しているので、今回のヨーロッパの知見を踏まえながら何らかのアウトプットを出したいと考えています。


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(2006/09/11)
Marthe Nyssens

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