考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

(書評)「ヨーロッパの社会的企業における社会起業家とソーシャルキャピタル動員」(M. ニッセンス編 社会的企業 第6章)

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Lars Hulgard and Roger Spear "Social entrepreneurship and the mobilisation of social capital in European social enterprises" (M. Nyssens ed. "Social Enterprise" Chapter 6) の要約。

前回のエントリで要約・考察したことから、本研究における起業家(社会起業家)の位置づけが気になったので、こちらもざっと見てみた。

この章も前回説明したとおり、PERSE リサーチプロジェクトの成果である。EU内の各国の労働包摂型社会的企業(WISE)のケーススタディに基づき、それらを改めて二次的に分析したものである。

主な結論は下記の通り。

・WISEの社会起業家は制度(institution;法制度だけでなく、社会的環境全体を指す)を変革しているか、について。シュンペーターによれば起業家は新たな制度的文脈を創造するとされている。社会起業家は、(1)新たな社会的な枠組みを創造しているのか。あるいは(2)既存の枠組みの中で誕生してきているのか。それとも(3)アドホック(その場しのぎ的・特定の問題に限って)なのか。(1)の例はイタリア・ベルギーである。イタリアやベルギーではパイオニア的WISEが率先して法制度確立やネットワーク形成に寄与してきた。(2)のケースはイギリスである。イギリスの社会的企業は多様な法人格をそのまま引き継ぎ、あるいは既存の組織がそのまま、社会的企業を設立してきている。しかしそれ以外の多くの国々では(3)である。

・WISEはその多くは、古典的な起業家モデルとも言えるヒーロー的な個人(起業家)による設立ではなく、集団的に設立されてきている。そのパターンとしては、(1)組織的(スポンサー的)な設立。つまり設立母体があって、設立されるケース。(2)市民的起業家による設立。集団的であるというのは、複数個人やボランティアグループからの発展もある。(3)複合的な起業家による設立。二つの組織の起業家が新たな組織を設立する、等。

・WISEの60パーセント近くはマルチ・ステイクホルダーモデル。ステイクホルダーの種類としては、ユーザー、ボランティア、常勤職員、参加者、企業、行政機関、他のNPOなど。つまりそれだけ多様なチャネルから資源を得られるソーシャルキャピタルがある、とともに、多様な組織から影響を受ける存在でもあるということ。(原著ではボンディング型=結束型ソーシャルキャピタルとブリッジング型=橋渡し型ソーシャルキャピタルというパットナムの概念を用いて解説されているが、私自身はこの概念が有用だと思っていないので、割愛)。


~感想~

WISEの設立者=社会起業家とアプリオリに規定している訳ですが、社会起業家とは何であるかを分析しているかというと、微妙。どこまでが(一般的な、あるいは営利の)起業家と異なっているのかが明らかではありません。

また、集団的な起業家という視点は、わりと最近の起業家論で取り上げられてきている視点ですね(これとか)。本研究で残念なのは、それとソーシャルキャピタルの視点とが、結びついていない点ですね。(実はこれを結びつけた卒論を、前にゼミの卒業生が書いており、わりとよい出来のものになっていました。京都のあるNPOを対象に分析したものです。できればそれを発展させて私と共著論文にしてみたかったのですが、追加調査も必要ながら本人卒業してますし、手をつけずにずるずるともう機を逸してしまった感があります。)

社会起業家とは何であるか。それはどのように発生・発達するのか。
うーむ。今回もすっきりしない読後感でした。


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