考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

社会的企業の「発見」 ~国際研究大会参加記~

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 先日、ヨーロッパの社会的企業研究ネットワークであるEMES(L’Emergence des Enterprises Sociales en Europe)が開催した、国際研究大会に参加した。場所はイタリア・トレントである。トレントはイタリア北部に位置するが、この地方はイタリアの中でも協同組合運動が盛んである。なおかつイタリアにおける社会的企業の典型例とされる「社会的協同組合」も数多い地域である。その小さな地方都市(一日あれば大概の観光スポットは廻ることができる)に、200名近い研究者・実務家が集まった。先述の通り、EMESはヨーロッパの組織であるのでヨーロッパ各国からの参加者が多かったが、それでも北米やアジア・中東・アフリカからも参加者が数多くいた。日本からは私を入れて、6名が参加していた。

トレントの町並み。ロープウェーでのぼった丘から撮影。
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こちらはお城です。ここで大会前日に、パーティがありました。
おしゃれでしたよ~♪
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 ヨーロッパでは主として、社会的企業の組織形態として非営利組織と協同組合が念頭に置かれている。その定義は大まかに言えば、組織面において民主的な運営(地域の利害関係者の参加、利潤分配の制限、資本によらない意思決定)がなされ、事業面では経済的リスクをある程度有し、自律性を持って財・サービスを提供する組織として定義される。
 ここで大会のスケジュールを紹介しておきたい。大会前日の晩に簡単なレセプションパーティがあり、その次の日から、3日間、朝から晩まで研究報告のセッションが続く。一つのセッションは2時間で、だいたい3~4人がひとつのセッションで報告する。セッションとセッションの間には30分程度の休憩時間があるが、そこで誰も休憩などしていない。お菓子と飲み物(ワインもあった)を片手に、近くの人をつかまえてひたすら議論、議論である。私など英語が半分しか分からなかったりするが、それでも話さなければ、居ないのと同じで誰も相手にしてはくれないので、必死でジャパニーズ・イングリッシュを駆使する(そして半分くらい、通じる)。2日目にはディナー・パーティがあり、ワイン工場直営のレストランで非常に美味しいディナーとワインを堪能したが、解散したのは午前1時近くであった!日本の会議等ではありえない時間設定である。もちろん次の日も朝早くからセッションがあった。タフでなければ国際社会は渡っていけない、ということだろうか。研究者も体力勝負である。


プレナリーセッションの様子
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テーブルではアジアの研究者の方々とご一緒しました。
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 今回のカンファレンスは学術的な意味合いが強いものであり、ヨーロッパ等での社会的企業の実際を知ることはあまりできなかった。しかし逆に言えば、社会的企業研究の最前線を知ることができたとも言える。とはいえ、私は(結果的にだが)「大物」の研究者の報告をあまり聞かずに、院生報告や、欧米「外」の報告セッションを中心に廻っていたので、社会的企業研究の「奥深さ」よりも「幅広さ」を今回は感じることとなった。

 例えば、さきほど、社会的企業のヨーロッパでの定義を紹介したが、それに違和感を覚える人も多かったのではないだろうか。それはヨーロッパ型の定義があまり日本で紹介されていないためでもあるが、それ以前に、日本では日本の社会的企業概念が、独自に形成されつつあるためだろう。それはまさに、アメリカが元祖の「NPO」概念が、日本では全く異なったアイデアで普及したように、である。アメリカではNPOとは博物館や私立学校といった非営利法人すべてを指すが、日本ではNPO法人を中心とした、市民性を強く有する組織に限定した使われ方をしている。社会的企業も同じように、様々な概念化が日本では試みられている。そしてこれは世界的な傾向でもある。各国で、もっといえば論者によっても、その定義は微妙に異なっている。世界的に社会的企業の概念についての議論が行われつつ、同時並行でその実証的研究も進んでいるから、何というか、とにかくエキサイティングである。厳密な概念操作化を用いて、厳密な実証を行うアメリカ型の研究では間尺に合わない、学問のグローバル化を目の当たりにした気がする(念のために言っておくと、もちろんアメリカでも社会的企業研究は盛んである)。

 社会的企業は世界規模で台頭しつつあるとされる。しかしこうした「幅広さ」を見聞した後では、ひょっとすれば研究(特に概念化の議論)が実態を輪郭付けてきているのであって、むしろ、社会的企業は世界的に「発見」されていると言うべきなのかもしれない、とさえ思った。

 最後に余談だが、向こうの院生から、よく、私も院生だと勘違いされた。日本人は欧米では若く見られがちだ。しかし彼らも私を「なめて」対応したわけではなく、むしろ同じ立場の者同士での連帯感を求めていた。身分不安定な院生が将来を不安視するのは、どこの国でも同じだ。そのぶん、同じ学問を学ぶ者としての強烈なシンパシーが、国境を超えて発生するのだろう。地球の裏側に(学問的に)よく似た興味関心を持っている者がいることを発見した喜びは、簡単には言い表せない。研究上の大きな励みともなる。そして将来的にもそのつながりは活きてくるのだろう。ぜひ、非営利組織研究の日本人院生もどんどん海外の学会に出て、ネットワークを築いていってほしい。とはいえ、院生時の私の語学力ではとても無理だったし、今でもひどく苦労しているので偉そうに言えた立場ではないのだけれど。

(全国公益法人協会発行『非営利法人』2009年8月号「提言」に掲載)

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