考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

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「社会的企業」がわけ分からない理由~多様な言説流布は誰の戦略か?

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前回の続きでもあります。
日本の社会的企業「言説」は非常に混迷を極めています。
これを社会構築主義的に、多様な文脈から理解してみようというのが今回のエントリの目的です。
なお以下は2009年7月に開かれた2nd EMES International Conference on Social Enterpriseで報告したペーパーの一部の日本語訳です。
ペーパー本体はこちらから見られます


1.「事業型NPO」論の登場と社会的企業論への展開
 

日本では1995年の阪神大震災におけるボランティアの活躍によって、1998年に特定非営利活動促進法という新たな非営利法人制度が整備された。周知の通りこの法人制度は、それまで管轄官庁の認可でしか取得できなかった非営利法人格を、「ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動」(同法1条)全般に広く取得を認めるものであった。また、この法人制度がそれまでの非営利法人と大きく異なっていた点は、設立や事業運営で政府の関与を受けず、アカウンタビリティが強調されていることである。このため同法の整備によって、それまで日本では認められていなかった、ボランタリーな、市民の参加を基礎においた非営利組織の設立を促すことにつながった。法施行から10年が経った現在、この法に基づく特定非営利活動法人(NPO法人)は、全国で3万5千を超える団体が活動するに至っている(2008年7月末現在)。

ただし、NPO法人の多くは現在、きわめて団体規模が小さい、いわゆる草の根の団体となっている。内閣府が2007年8月に公表した「平成19年度「市民活動団体基本調査報告書」」によれば、年間収入が100万円未満のNPO法人が回答全体の22.6%、500万未満の団体が45%であった。他方、3000万円を超える団体は回答全体の18.4%しか存在していなかった。組織規模が小さい団体が数多いことは、日本における市民活動のすそ野の広がりを示すものであり、民主主義的な社会の表れであるとも言える。しかしながら同時に、より活動規模が大きい団体が増えてこそ、その「新しい非営利組織」が社会的経済的に与える影響力が高まるということも言えよう。そのため、NPO法人の団体数だけでなく、組織規模がどうすれば拡大するのかについては、これまで研究者の間でもしばしば議論となってきた(例えば川口, 2004)。

このように極めて市民参加的な性格を有する法人格であるNPO法人において、その組織的発展の方向性の議論の中で「事業型NPO論」が生まれた。そしてそれがアメリカ・ヨーロッパの社会的企業論と結びついていったことが確認できる。

ここでの「事業型」の意味は、その収入源の多くを事業収入に依拠するタイプのNPOのことである。川口(2004)松永(2008)、桜井(2009)などが指摘するように現在のNPO法人においては、とりわけ団体規模の比較的大きなものでは、事業収入への依存するウエイトがきわめて高い。このため、日本におけるNPO法人の規模拡大には事業収入が重要であるということになり、「事業型NPO」の議論に行き着くのである。

ただしこうした団体規模が大きい事業型NPO法人は、その多くが介護保険制度や支援費制度といった疑似市場・準市場のもとで収入の多くを確保していることに留意しなければならない(桜井, 2009)。福祉サービスの準市場化には賛否両論が日本でも見られるが、ヨーロッパでの社会的企業の台頭の背景には、補助金から準市場というように、政府からサードセクターへの資金提供の形態が変化したことが大きい。そのため、保育サービスなどに準市場的な仕組みが取り入れられるかどうかについて注視していく必要がある。

このように日本における「事業型NPO」を巡る議論は、明らかにNPO法人を対象として論じられている。これはアメリカにおける「NPOの営利化」(Dees & Anderson, 2006; Defourny & Nyssens, 2008; 谷本, 2000)の議論とは全く異なる前提である。アメリカの議論は病院を中心に始まり、そして「営利と非営利の接近」を肯定的にも捉えるところに発展した。これに対し、例えば介護保険制度下で居宅介護サービスを行うNPO法人は、他の非営利・営利の法人に比べ、サービスの質が高く、また利益よりも地域ニーズを重視している傾向にある(桜井,2009)。「営利化」に象徴されるような利益追求主義に陥っているような点は(全体の傾向としては)見受けられない。


2.ソーシャルビジネスとしての社会的企業


日本における社会的企業を巡る第二の文脈に、サービスや事業の社会的革新性に焦点を当てた議論が存在する。これは言うまでもなくアメリカの社会的革新学派の影響を強く受けた潮流である。経済産業省はそうした取り組みを「ソーシャルビジネス」と呼び、次のように定義している(表3)(経済産業省, 2008)。



<表3 ソーシャルビジネスの定義>
①社会性
現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
②事業性
①のミッションをわかりやすいビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
③革新性
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組の開発、あるいは、一般的な事業を活用して、社会的課題の解決に取り組むための仕組の開発を行うこと。
(経済産業省, 2008)


ソーシャルビジネスとはまちづくりや福祉、環境、農業、教育、途上国支援といった社会的な領域において、いままでにない事業(ソーシャルイノベーション)を行っている取り組みを指すと考えられる 。こうした事業領域で一定の輪郭を示す一方で、このアプローチではそのビジネスを行う組織の形態については明確に定義されない。経済産業省(2008)によれば、ソーシャルビジネスに従事する団体はその半分近くがNPO法人である(46.7%)としているが、非営利も営利も協同組合も(上記の定義に沿う限り)すべての組織形態がそこには含まれている(営利組織は調査対象全体の20.5%) 。さらには、それらの組織を組み合わせて運営される形態についても取り扱われている(ハイブリッド形態) 。同省は2007年には有識者や実践家を委員とした「ソーシャルビジネス研究会」を発足させ、その実態や支援のあり方を検討した。そして2008年には「ソーシャルビジネスフォーラムジャパン」を開催している。

このような一見、なんでも含んでしまう定義は、学術的にはほとんど意味をなさない。したがって、こうした曖昧模糊とした概念を経産省が採用した背景には何らかの政策的理由があると考えることができる。このソーシャルビジネスに注目する理由は、経産省のミッションとして、ニュービジネスの起業推進を図ることで経済の活性化を促したいためであろう 。あるいはうがった見方をすれば、省益としての予算獲得が目的とも言えるかも知れない。

経産省はソーシャルビジネスに注目する以前、類似の新規事業として「コミュニティビジネス」振興の振興に予算をつけて各種政策を執り行ってきた。コミュニティビジネスの定義は割愛するが(例えば澤山, 2005を参照)、多くの調査ではコミュニティ・ビジネスの多くはNPO法人であり「事業型NPO」との差異は不明確である(経済産業省, 2006; 地域活性化センター, 2005, 厚生労働省, 2004)。さらに橋本(2007)の研究では概念的にはコミュニティにこだわる必要性は見いだせないとしている。経産省でのコミュニティビジネス振興は、、その政策的経緯をみると、ソーシャルビジネス振興に吸収発展されたかのように思える。またうがった見方になってしまうが、このように概念を更新することで予算を継続的に獲得するねらいがあったのかもしれない。

このアプローチは「社会起業家」言説とも相性がよい。このアプローチがサービスや事業の社会的革新性に注目していると述べたが、それはシュンペーターの起業家概念の影響が色濃い。シュンペーターがイノベーションを「創造的破壊に基づく新結合」であると定義したことは有名である。そこにある重要な考え方は、何か新しいものの誕生とは、旧来の方法や体制からの連続性のなかで創造されるのではなく、それらの破壊を伴って非連続的に生まれる、というものである。社会起業家概念も、そうした何らかの革新を引き起こしていることに焦点を当てている。たとえばHart & Milstein(1999)は、持続可能な社会を実現するためには、既存の企業に取って代わる、革新的なニューカマーが想像的破壊をもたらすことが期待されるとしている。

日本での社会起業家の議論は、2000年以降のアメリカやイギリスの事例紹介に端を発する(町田, 2000; 斎藤, 2004;渡邊, 2005など)。このため学術的な分析よりも実践への注目が先行し、支援組織・実践ネットワークが広がった。このため学術的にその定義はまだ定まったものは日本ではないと言ってよい。実践レベルでは、例えば東京財団(2002)においては「社会起業家は、社会に新たな仕組みと価値観を創出する市民のリーダーである。身近な課題を主体的に発見し、コミュニティの資源を使い、社会性と事業性を両立させながら問題に取り組み解決策を導く」などと定義されている。近年、学術的な分析も増えつつあるが、その多くが社会起業家の社会的変革に注目している(服部, 2002; 大室, 2003; 東京財団, 2002)。

また日本では、社会的企業を非営利組織と営利企業を両極とした連続性のなかに位置付けられるとする「連続体アプローチ」(Alter, 2007)を援用して、CSRも社会的企業の一種と考える論者が存在する(谷本,2006)。しかしDefourny と Nyssens (2008) が言及しているように、CSRはその企業の本来の目的において社会関心がどれだけの重みを持っているのかが評価しがたい。社会的企業と一般的な企業のCSRとは峻別されるべきではないだろうか。

<参考>
名称未設定


3.新しい協同組合運動としての社会的企業


第三に、日本型社会的経済概念とも言える、「非営利・協同」概念の議論と、そこから社会的企業研究会での議論である。これは協同組合論者における文脈である。日本では協同組合運動が伝統的に経済社会的に一定の役割を果たしてきていた。代表的なのは農業協同組合や、消費者生活協同組合、協同組合金融などである。これらの協同組合では一人一票の原則と組合員による直接統治にこだわっており、組織の民主的な運営がその特徴とされてきた。それらの協同組合では組合員の生活向上に向けて、多角的に事業を展開してきた。

1970年代から、既存の協同組合とは一線を画するタイプの協同組合の登場してきたことは、社会企業概念が日本で議論される上で極めて画期的な出来事と位置づけられる。その代表例はワーカーズ・コレクティブ、労働者協同組合(ワーカーズ・コープ)や協同組合型の障害者小規模作業所である。これらの組織は、そこに働く人々によって所有(出資)され管理される事業体であり、民主的な運営が重視されている。これらの協同組合が特徴的なのは、労働市場から社会的に排除された人々の包括を目的として起業されているところである。その意味で組合員の共益を超えた、公益性を持った組織である。

また、2000年の介護保険制度のスタートに前後して、協同組合セクターが介護サービス事業へ進出する新しい動きがあった。法律上、原則的に、協同組合のサービスはその組合員のみ利用が認められ、組合員外の利用は制限されていた。しかし、介護保険制度の下で、利用対象者を組合員資格で区別せずに同様に介護サービスを行うことになった。

このように、社会的なミッションを持ち、社会的なサービスを提供する新しいタイプの協同組合型組織の登場は、従来の協同組合論では捉えきれない存在となっている。このことが、協同組合研究者の中で、社会的企業概念の必要性を喚起することとなった。日本においての1990年代以降の、アメリカ型の非営利組織概念の受容とNPO法の施行は、第三セクターの主役をNPOと位置づけることとなった。これに対して、協同組合研究者の間からは従来の協同組合を位置づけない概念であることの異議が出された。その結果、ヨーロッパの「社会的経済」概念を参考としながら、協同組合とNPOを包含した「非営利・協同組織」あるいは「非営利・協同セクター」概念が提起されたのである(角﨟・川口, 1999)。

こうした協同組合と非営利組織の融合ともいえる新たな動向については、2000年以降、ヨーロッパでの議論の経緯から「社会的企業」として概念化すべきであるという意見が多く見られるようになっていく。そして多くの協同組合研究者・実践者が参加するかたちで「社会的企業研究会」が2005年に発足し、議論が活発に行われている。


4.「日本型社会的企業」概念の形成に向けて

以上、日本での社会的企業の語られ方について、3通りのアプローチに区別し、その言説が形成されてきた経緯を概観してきた。日本では社会的企業概念について、それは3つの文脈において、それぞれの論者たちが議論の正当化のために社会的企業概念を戦略的に用いたことが指摘できる。

これらそれぞれの文脈においては、全く異なる対象を別々に社会的企業と呼び扱ってきているわけではない。むしろその対象組織は大きくオーバーラップしており、どれを含めてどれを含めないといった対象区分の各論的違い、あるいは、そうした組織群を取り上げるにあたっての議論の焦点での違いが大きいといえる(下表参照)。

名称未設定2

さらに、現在議論されている「日本型社会的企業」概念について、その見取り図を示したのが下の図である。

名称未設定3

社会的企業を日本において定義づけることは、国際的な議論の俎上に載せるためにも重要なことである。また同時に、日本の文脈上の固有性を理解し、日本での社会的企業論を発展させるために重要な作業であろう。しかしながらこれまで、社会的企業概念が日本で十分に確立しているとはいえない状況にある。社会的企業概念が日本で今ひとつ明確な像を為し得ていない一つの理由を、法制度の未整備に求めるのはそれほど的外れではなかろう。NPO概念のように法人格制度が未確立であることから社会的企業のイメージや語られ方が拡散していることは否めない。したがって今後の「概念」の変転は予想のつかないところである。



参考文献
Alter, K. (2007) Social Enterprise Typology, Virtue Ventures LLC.
地域活性化センター(2005)『コミュニティビジネスとコミュニティの再生について(調査研究報告書)』。
Dees, J. G. & Anderson, B. B. (2006) “Framing a theory of social entrepreneurship: Building on two schools of practice and thought,” In Rachel Mosher-Williams (ed.), Research on Social Entrepreneurship: Understanding and Contributing to an Emerging field, ARNOVA.
Defourny, J. & Nyssens M. (2008) “Social Enterprise in Europe and the United States: Conceptual Convergences and Divergences Rooted in History,”(Conference paper), ISTR 8th International Conference and 2nd EMES-ISTR European Conference, Universitat de Barcelona, Barcelona, Spain.
川口清史(2004)「日本型NPOと社会企業」『政策科学』11巻3号、pp.201-212。
経済産業省(2008)『ソーシャルビジネス研究会報告書』。
経済産業省関東経済振興局(2006)『コミュニティビジネス事例集』。
Nyssens, M. (Ed.) (2006) Social Enterprise, Routledge, London/New York.
服部篤子(2002)「社会変革を導く社会起業家とは」『生活協同組合研究』323、pp.12-18。
橋本理(2007)「コミュニティビジネス論の展開とその問題」『関西大学社会学部紀要』38巻2号、pp.5~42。
角瀬保雄・川口清史(1999)『非営利・協同組織の経営』ミネルヴァ書房。
川本健太郎(2007)「福祉 NPO の形成過程における社会起業家の役割と行動: NPO 法人代表者インタビュー調査を中心に」『関西学院大学社会学部紀要』102、pp.131-142。
経済産業省(2008)『ソーシャルビジネス研究会報告書』。
厚生労働省(2004)「コミュニティ・ビジネスにおける働き方に関する調査報告書概要」。
町田洋次(2001)『社会起業家』PHP新書。
松永佳甫(2008)「非営利セクターの商業化とソーシャル・エンタープライズ」塚本一郎・山岸秀雄編著『ソーシャルエンタープライズ』丸善株式会社、pp.85-101。
大室悦賀(2003)「事業型NPOの存在意義:ソーシャル・イノベーションの主体として」『社会経済システム』24、 pp.131-143。
谷本寛治編著(2006)『ソーシャル・エンタープライズ:社会的企業の台頭』中央経済社。
谷本寛治(2000)「NPOと企業の境界を超えて:NPOの商業化とNPO的企業」『組織科学』33巻4号、pp.19-31。
東京財団(2002)「地域社会のリインベンション」『ワーキングペーパー』11号。
斎藤槙(2004)『社会起業家 社会責任ビジネスの新しい潮流』岩波新書。
桜井政成(2009)「「事業型NPO」の特徴とその発展課題」『非営利法人研究学会誌』11巻、pp.163-172。
澤山弘(2005)「コミュニティビジネスをどう捉えるか:ソーシャルビジネス、およびコミュニティ産業と関連付けて」『信金中央金庫総合研究所 産業企業情報』17(8)。
渡邊奈々(2005)『チェンジメーカー:社会起業家が世の中を変える』日経BP社。


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