考えるイヌ〜桜井政成研究室〜

研究メモ、ゼミなどの教育活動、その他関心事など。

東アジア型福祉国家の変化と社会的企業の台頭

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雑誌「Social Enterprise Journal」の最新号(vol.7 no.1)で、東アジアの社会的企業特集が組まれている。

本特集は、東アジアの社会的企業研究者ネットワークの数年間の成果でもあり、その末席に加えて頂けた私も、共著ではあるが拙稿を掲載頂いている。

同特集では、ゲストエディターのDefournyが、韓国の社会的企業研究者のKimとの共著で、東アジアの社会的企業の特徴について概括した論文を掲載している。この論文をレビューするかたちで、東アジアにおける社会的企業の共通的な特徴について、検討してみたい。
(論文とはまったく関係ないが、二人ともお酒が強くて、付き合うと楽しいけど大変)

Deforny, J. & Kim, S. "Emerging models of social enterprise in Eastern Asia: a cross-country analysis," Social Enterprise Journal, vol.7(1), pp.86-111, 2011.

DefournyとKimは、東アジアにおける社会的企業が台頭してきた背景について、その主たる共通傾向として、以下の5点を挙げている。

1)社会サービスの供給者としてのNPOの役割。福祉レジームの変化(市場化、福祉から労働へ、社会的投資)などによる。

2)公共政策上の変化。NPOとの関係において契約を重視する文化になってきた。そしてそれは、市場志向のアプローチを受容させ、公共事業契約競争も招いた。

3)社会起業家における「企業の社会的責任」(CSR)概念の“ソフトランディング”。営利企業による基金設立の増加が背景にある。

4)NPOにおいて活動の持続可能性確保のための、経営資源の多様性確保の戦略が変化してきたこと。

5)市民社会組織と学術界で、ある部分、新たな経済的実践が再び指向されるようになったこと。これは、新自由主義的なグローバリゼーションの負の影響を認識したため(構造調整事業、投機的資本流入、環境破壊等)。



日本(と韓国)ではこのうち、最後の5番目の要因の影響が強い、としているが、この点には私は異論がある。日本ではグローバリゼーションの影響を受けたというよりも、1)あたりの影響が強いというのが私の認識(多分、参考にされた論文の影響ですね)。なお、台湾や香港では2番目の要因が強いとのこと。

いずれにしても、東アジアで社会的企業現象が広がった背景として、もっとも大きな要因は、福祉国家の変化とグローバリゼーションとしており、これについては賛同する。

では東アジアでは社会的企業とはどのような組織を指しているのか、あるいはどのような組織が社会的企業であると認識されているのか。これについては、もちろん国によって文脈がまったく異なっているのだけれども、「理解を助けるために」と前置きした上で、控えめな感じに、東アジアに見られるいくつかの社会的企業の類型を挙げている。

モデルA)「取引型NPO」

…いわゆる事業型NPO。アメリカ的な説明では、NPOが市場取引による収入をより求めるようになり(他の収入源の減少から)、このタイプの社会的企業が台頭したとされる。しかし東アジアでは異なった文脈から、このタイプは登場してきている。第一には、社会や経済の基礎的な保障をしている政府が、よりよい市民社会創造の担い手として認識し促進している場合であり、第二に、政府が多様で効率的なサービス供給の担い手として契約する相手として発展している場合である。日本では介護保険による多様な供給主体の発生がその典型例。韓国では金融危機後の1999年に政府が打ち出した「生産的福祉」という新たな福祉レジームにより開始した「自助支援プログラム」により、「地域福祉センター」が各地に開設された。


モデルB)「労働包摂型社会的企業」(work integration social enterprise; WISE)

…労働市場から排除されている人達の就労支援を行っている社会的企業。一時的な職を提供したり、トレーニングを行ったりする。身体的・知的・精神的な障害者がそのターゲットとして典型的。ただしWISEと分類される社会的企業であっても、そのミッションからすれば、例えば同時にモデルAの取引型のNPOであったり、それ以外の類型に分類されるものであったりもする。日本では「労働者協同組合」や「ワーカーズ・コレクティブ」といった独自類型を持っている。また、韓国の「社会的企業育成法」に基づく社会的企業の多くが社会的脆弱者の雇用を中心的な活動としている。香港でもWISEは急激に増加しており、これは失業リスクの拡大と、福祉政策における「福祉から労働へ」という流れへの適応と理解されている。


モデルC) 「非営利協同」(non-profit co-operative)企業

…日本では、協同組合運動からスピン・オフした社会的企業も多い。近年では新しい協同組合運動も誕生しており、それらの特徴は社会的目的を明確に持っていることである。モデルBで紹介した労働者協同組合や、健康的な食品を扱う生協、フェアトレード商品を扱う生協など。これらの協同組合は、アメリカ型のNPOの分類には含まれない。そこで幾人かの研究者は、「非営利協同」というカテゴリーで説明している。韓国でも、消費者生活協同組合の他、医療協同組合や、協同組合運営の保育所など、市民社会を促進させる新しい協同組合運動は盛んになっている。中国でも、農業協同組合を中心に、伝統的に協同組合は数多い。しかしそこには強力な政府の関与がこれまではあった。しかし2006年に施行された農業者特定協同組合法では、社会的起業家精神を強調するようになっており、政府規制よりも自律的な運営が求められるようになっている。



モデルD)「非営利=営利パートナーシップから派生した社会的企業」

…企業がCSRの一環として、NPOと協力しながら社会的企業を設立したり支援するパターン。中国では2004年の法改正で、私企業が財団を設立することを許され、社会貢献の新たなチャネルとなった。2008年の終わりには1600の財団が私企業によって設立され、その数は今も急激に増加している。台湾や香港では、「ジョイントベンチャーモデル」や「ソーシャルベンチャーモデル」と呼べるような社会的企業の形態が企業とNPOのパートナーシップにより設立されているし、日本でもそうした例が見られる。このモデルで難しいのは、企業がシェア獲得や最終的には企業利益となるような取り組みとの線引きである。


モデルE)「コミュニティ開発」社会的企業

…日本のコミュニティビジネスは1990年代初頭から、よく知られるようになったコンセプトである。商店街の再生、社会的に排除されがちな人びとによる企業、農村地域活性化のための女性の起業などがその典型例である。韓国では2010年の公共管理安全省の政策によって、「自己充足的地域コミュニティビジネス」が拡がってきている。これは、特定の組織類型を指すものではないが、農村地域において政府主導で社会的問題の解決主体を育成するものだ。台湾でも、コミュニティ開発運動から発生した「地域コミュニティ開発型社会的企業」が存在する。1990年初頭からの様々な政府補助金によって、地方の経済や生活を改善するための活動が活発になった。


こうした類型化については、おおざっぱには確かにあてはまるところもあるのですが、やはり日本独自の文脈を振り返ると、また少し丁寧な整理が必要ではないかと思います。
詳しくは同特集の私の論文か、あるいはこのブログの以前の記事でも簡単に提起しています。

さらに同論文では、Kerlin(2009)の成果に言及し、東アジアの社会的企業の相対的な特徴を述べている。
Kerlin, J.A. Social Enterprise: A Global Comparison,Tufts Univ, 2009

このKerlin(2009)の成果について、簡単に説明しておきたい。彼女は、いくつかの比較軸によって世界各地域の社会的企業の文脈を整理し、分類する研究を行っている(Kerlin, 2009) 。

それによれば、日本の社会的企業を取り巻く独特の文脈として、次の6点を指摘している。

第1に、活動成果が社会的にも経済的にも期待されている点である。
第2に、活動分野の焦点はサービス提供と、雇用の問題に当てられている。
第3に、一般的な組織類型として非営利と営利が存在している。
第4に、法的枠組みについてはまだ検討されていないこと、
第5には、社会セクターには市場経済が取り入れられている点。

そして最後に、日本の社会的企業の戦略的な発展基盤は、政府にあるとしている。

例えばヨーロッパであれば各国の政府に加えてEUが基盤になっているし、アメリカでは政府よりもむしろ、ファウンデーション(財団)が主な基盤となっている。

 このためKerlinは、日本の社会的企業のモデルは他の地域・国に比べて、「市民社会/市場/国家」の影響により成り立っているモデルとしているのである。
名称未設定1

元の論文の話に戻るが、DefournyとKimは、この比較軸を参考にしながら、しかし東アジア全般においては市民社会の影響はまだそれほど強いとは言えず、「市場/国家」モデルから「市民社会/市場/国家」モデルへの移行期にあるとしている。




概説的な論文なので、これ以上のオチはないのですが、ただ、最後の結論部分である種予言的だったのは、東アジアでは政府の影響は強いものの、例えば阪神大震災や1998年の中国での大洪水がそうだったように、巨大な災害がひとつのきっかけとなり市民社会が盛り上がっていると述べられていること。

今回の東日本大震災ではどのようなかたちで救援・復興に向けて市民社会が反応したかについては、現在進行中でもあるので今後じっくり検証していかなければなりませんが、ボランティア活動、義捐金や救援物資、政府の放射能汚染対応に対する市民運動など、問題点も大いにありつつも、新しい日本の市民社会の萌芽が生まれている気もします。
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